笠原嘉『退却神経症―無気力・無関心・無快楽の克服』

amazon ASIN-4061489011最近ずっと『チボー家の人々』を読んでいたあいだに読まれずに溜まっていた本のうち、お気に入りの笠原嘉の本を一冊読み終えた。
講談社現代新書の『退却神経症―無気力・無関心・無快楽の克服』である。
退却神経症ってのは、本来やらなければならない本業からの撤退・果たすべき社会的責任は放棄するものの、何もかもやる気がなくなるのうつ病とは明確に違って、本業ではない副業・趣味・活動への意欲は失せない状態であるらしい。
社会人や大学生が、仕事や学校には来ないのに、職場やサークルの飲み会や集まりにはやたらと元気に参加したり、副業や趣味には必死に打ち込んだりする状態がそれである。


この退却神経症の原因として「自己愛パーソナリティ障害」とか「境界性人格障害」がこの本の中であげられていた。
今時「自己愛パーソナリティ障害」とか「境界性人格障害」っていうのは、職場や学校などでちょっと普通の人とは違う人に対して、レッテル張り的な殆ど悪口のような文脈で使われる事が多いような気がする。
しかし、さすがの笠原嘉である。この本では「自己愛パーソナリティ障害」や「境界性人格障害」からくる「退却神経症」を、「二十世紀後半型のわがままパーソナリティーである」としながらも、「実存的抑うつ」「生きる意味の消失」などと彼らの特徴を肯定的に捉えていてとても好感が持てたし、退却神経症の人はさぞかし勇気付けられるだろうなぁと思う。
この本を読んでると「アスペルガー」とか「なんちゃら人格障害」を悪口として使うような世間に満ちている文脈は、気に食わない相手を「性格が悪くなる病気」「KYになる病気」と自分の主観ではなく医学という客観性でもって「性格が悪い」「KY」と決め付けたいだけやないかと思うのである。
この笠原嘉のような、道から外れて苦しんでいる当人の現実的な利益を最優先する視点は本当に大事やなぁと思うのであった。

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