都築響一 『夜露死苦現代詩』/ストリート系、或いは市井系現代詩

どの本を読むかを決めて本を借りに図書館に行くのではなく、新着図書やらちょっと気になりそうな棚の辺りをぶらぶらしながら本の背表紙を眺めていると、普通なら借りようと思わないような意外に面白い本にめぐり合うことが多々ある。
例えば、以前借りて面白かった雨宮処凛などは、目の前で直ぐ手に取れる状態になければちょっと読んでみようかという気にはならなかっただろう。
amazon ASIN-4480427023そして、そういう風に棚を見ていて見つけた中の一冊、都築響一の『夜露死苦現代詩 』がとても素晴らしかった。
この本は
「誰もが愛しているのに、プロだけが愛さないもの。書くほうも、読むほうも「文学」だなんて思いもしないまま、文学が本来果たすべき役割を、黙って引き受けているもの。そして採集、保存すべき人たちがその責務をまるで果たさないから(学者とはそういう職業ではなかったか)、いつのまにか消え去り、失われてしまうもの。
そういったものばかりを集めた本である。
暴走族的世界観から生み出された名文句”夜露死苦“、また”父上様、母上様、三日とろろ美味しゆうございました。“で始まる円谷幸吉の遺書を現代詩のもっとも素晴らしいものの一つとして、市井の人たちの詩、例えば、寝たきりや痴呆の老人の独語、死刑囚の詠む俳句、エロサイトのキャッチコピー、暴走族の特攻服、エミネムや相田みつをなど、文壇や文学者や評論家から全く無視されているが、なぜか人の心を、色々な意味で強烈に刺激するものばかりを取り上げて紹介している。


amazon ASIN-4480038094そういえば、私はこの同じ著者の写真集である、東京でアパートやら下宿やらを間借りして住む人々の、やたらと生活臭あふれる部屋の写真ばかりが集められた『TOKYO STYLE 』も好きなのであるが、この都築響一という人は、世の中に埋もれている普通の人々をテーマにしていることが多いようだ。
この『夜露死苦現代詩 』のメインカルチャーの枠内にいない、妙にリアルで強烈に人の心を掴んで放さないそれらの言葉は読んでいるとなんとも胸が熱くなる。
中でも知的障害を持った息子と共にアパートで餓死するまでを詳細に綴った老いた母の日記、人の領域を超えたような死刑囚の辞世の句、知的障害の男によってつづられてゆくシュールなクイズ形式の自己紹介のようなものは、どんな文学にもないリアルな「なにものか」が刻まれているように思える。
そういえば「よろしく」なるあいさつ文の当て字である「夜露死苦」を夜、露、死、苦と分解して考えてみれば、無明の闇で路頭に迷う、死と苦を免れない人間存在が見事に浮かび上がってくる。
あいさつ文としての「夜露死苦」はなんとも仏教的で一期一会の喜びを色濃く表したものに見えてくるのであった。
自分の周りにあるものを結構根本的に見直そうとする気になった一冊であった。

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