ミラン・クンデラ『ほんとうの私』

子供を失って離婚した高給取りの女性と、年下の知的ダメ男系の熟年カップルの恋愛について書いた小説。
なぜか本国フランスよりも日本語版が先に発売されたと言う、日本をターゲットにしたと思われるこの本。
そこのところの意図は結局わからんままに終わった。まぁ特に訳なんか無かったのかも知れんけど。
小説形式は今までのような小説内に作者が登場したり、何かについて雄弁に語ってみたりと言うことは一切無く、どちらかと言うとストーリー小説のように進行する。
そして他の同作者の小説に比べて「詩」的な表現や感覚に訴えかけるような記述が多いように思った。
日本語のタイトルは「ほんとうの私」となっているけど、原題から忠実に翻訳すると「アイデンティティ」と言うことになるらしい。たしかに、この本のテーマにそういうところを読み取れた。
結局、醜いとしか思えない同意出来ない世界と、そこに生きる自分をどうやって肯定するか。というテーマになるのか?


amazon ASIN-4087732614主人公の恋人の友人が臨死体験をした後に語る、

死のあとでも、ひとは生きているという考えを払いのけられないんだ。死ぬとは、無限の悪夢の中で生きることだと言う考えをね。

という台詞で、同意できない世界への回答としての死に対する逃げ道を塞いでおいたところは好感が持てた。
人と人が沈黙を埋めるための話をするネタを提供するために世界は必要とされる。という主客が転倒したように見える見方を面白おかしくそのカップルは共有するけど、ほんとうの所は相手を通してしか感情的にも社会的にも世界とつながっておらず、で、そういうのんてどうやねん?という話なのか?
どっちにしろ、読んでて「ぁぁ、こうはなりたくないなぁ…」と思った。

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