モーツァルト:ピアノソナタ第8番イ短調K.310 グレン・グールド

私は常々自閉的な人間に惹かれる傾向があるようで、このグレン・グールドなんかはそういう観点からいって最高に自閉的で魅力的なピアノを弾く人間やと思っている。
しかしながら自閉さえしてれば誰でも良いと言うわけでもなく、その自閉的な人が自分の中に持って閉じこもっている美しい世界をチラッと見せてくれて、それを我々が垣間見る瞬間が良い訳で、その各々の閉じこもっている世界が美しくないといけないのである。
例えば、このグレン・グールドやビョークやボリス・ヴィアンの世界は良いけど、猟奇的殺人などをやっちゃう人が閉じこもっているような世界はちょっと駄目である。となかなか難しい。(難しくもないか)
というわけで、このグレン・グールドといえばバッハ、しかもゴールドベルク変奏曲ということになるけど、今回は毛色が変わった彼の演奏するモーツァルトのピアノソナタ集のCDを聴いた。


amazon ASIN-B00005HMOZグレン・グールドはモーツァルトのことを余り好きでなかったようで、「モーツァルトは早く死にすぎたというより、死ぬのが遅すぎた」とか「あんな退屈な作曲家はいない」とかボロクソである。
彼がモーツァルトを弾く時は「彼の悪い所を直してあげながら弾いている」とオレ様的に心がけているらしく、持っているクララ・ヴュルツのCDと聞き比べてみると、ワザと全然違うように弾いてるんと違うか?ってくらいに明らかにテンポが異様に速すぎで、モーツァルト好きが「モーツァルトへの冒涜」というのも良くわかる。
しかしながらもう「W.A.モーツァルト作曲 グレン・グールド編曲」とでも思って開き直って聴いてしまえば良いのではあるまいか。
で、このCDの聴き所は「ピアノソナタ第8番イ短調K.310」だろう。
モーツァルトのピアノソナタでたった二つの短調の一つであり、彼がパリで母を無くした時期に作られたとあってその悲しみが反映されているという事らしい。
激しく始まるイ短調の第一楽章はアレグロ マエストーソな激情で突っ走り、ヘ長調の第二楽章はコン・エスプレッシオーネな美しいメロディーがアンダンテ カンタービレにソナタ形式で展開して行く様はなんとも感動的である。再びイ短調に戻った第三楽章でプレストに曲がしめられる。
グールド臭はCD全体に漂っていて、聴けば、グレン・グールドの世界が充満する。グールド的心地良さに満ち満ちているCDである。何を弾いても自分色と自分味に染めてしまうあたりは、本当に感心する。
しかしながら、モーツァルト的な音楽的語彙でグレン・グールドの世界を語るのは以外にしっくりきているのではないかという気がするのも不思議なものである。

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