真山仁『ハゲタカ』/白馬に乗ったハゲタカ王子

経済小説を読もう企画第2段ということで真山仁の『ハゲタカ』を読んだ。

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バブル崩壊後の大量で巨額の不良債権を抱えた金融機関の債権に、外資系投資ファンドが死肉に群がるハゲタカのごとく群がって安値で買いあさり、破綻寸前の企業や金融機関を次々と買収してゆく様を書いた小説で、実際に起こった事実に基づいて構成されているようだ。

映画にもドラマにもなっているけど、この原作は半沢直樹なんかよりはるかにエグくてリアルな小説だと聞いて読んだのだが、投資ファンドは安値で買い叩いた債権を単純に転売して利益を上げるのではなく、見込みのある債権先の企業を買収して経営陣を入れ替えて再建したり健全化したりしているので、むしろ投資ファンドが正義の味方に見えてくるくらいである。

『ハゲタカ』の投資ファンドは再建先企業の役員にとっては自分の死肉を突くハゲタカに見えても、古い経営陣を入れ替えて経営を健全化させて企業価値を飛躍 的に高めるわけであるから、「法人」としての企業から見れば白馬に乗ったハゲタカ王子様に見えるだろう。

この小説のエグさというのは、投資ファンドのエグさと言うよりは、古い体制のアホ過ぎる日本の金融機関と企業のエグさであろうか。

外資系ファンドの容赦ないエグさを体験するという意味では、この小説よりも浜田和幸『ヘッジファンド世紀末の妖怪』 (文春新書)の方をお勧めする。

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1営利企業に過ぎないはずのヘッジファンドがタイ、香港、韓国、と国家相手に次々と通貨戦争しかけて、国家を破綻寸前にまで追い込む事で巨額の利益を得る様はエグい以外の何物でもないですぞ。

ナイフで人を傷つけようとするときは五感を通して相手の痛みや苦しみが伝わってくるのでナイフで人を襲う人はついつい自制してしまうけど、銃は指先の動きだけで遠くから他人に決定的な状況を与えてしまうので人は銃を持つと幾らでも残虐になれるという。

おなじように、人の見えない金融市場でのみ戦うヘッジファンドに比べれば、バイアウト・ファンドや買収ファンドとして活動する『ハゲタカ』の投資ファンドはいくらエグくても企業だとか金融機関といったある程度現実に存在する「人」に対面してするので、私利私欲を貪る一族企業の会長を自殺に追い込む程度で、ついつい無茶にストップがかかってしまうのかもしれないですなぁ。

しかし、この小説の主人公はジャズピアニストから転向した投資ファンドの敏腕日本人社長なのだが、登場人物から小道具まで、何から何までオッサン臭いテイストが漂っている。これは『島耕作シリーズ』と同じオッサン臭さをかもし出してるなw

それに比べればアレだけオッサン臭く見える村上龍がとても若々しく感じられるのであった。

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