ミヒャエル・ハネケ 「セブンス・コンチネント」(1989/オーストリア)

amazon ASIN-B000JVS58Oミヒャエル・ハネケの映画デビュー作である「セブンス・コンチネント」を観た。

オーストラリアへの移住を希望する一家の3年間を三部構成にわけて描く絶望のドラマ。史上空前のラストが観客を待ち受ける。 タイトルを直訳すると第七の大陸。地球上には第六の大陸までしか存在しない・・・。

というパッケージ書きをレンタル屋さんで見て思わず借りてしまった、
その説明だけを見て、亡命に望みを繋ぐ家族が社会の底辺であえぎながらもやっぱり社会に押しつぶされるようなストーリーをなんとなく想像していたのやけど全く違った。
中流ちょっと上の三人家族、夫は仕事で出世のチャンスをつかみそうで、妻は母の死にまつわるごたごたからやっと日常を取り戻し、娘はちょっと変わっているけど可愛らしく素直である。言うなれば不安要素ゼロな感じの三人家族の日常の物語が淡々と続いているはずが、気付くといつの間にか彼らが救いの無い深みにはまっている事に、観ている我々が気付く。


はたから見る限り切っ掛けも理由も見当たらず愛する人もいるのに、いつの間にか完全に絶望しているのが逆に変にリアルで怖い。
説明は出来ないけどとても理解できる感覚のリアルさと、その感覚を理解できる事自体が更に恐ろしいと思わせるのである。
理性を保ちながら、正気を保ったまま確信を持って絶望してゆく様はなんとも恐ろしい。
絶望が心情的なものではなく、単なる真実でしか無いという状態は世界認識のある意味でのスタート地点ということになるのだろう。そしてそれは来るべき帰結へ向かって進みだす。と言うわけである。
絶望して映画が終わるのではなく、絶望してから映画の本当の展開が始まる作りであるのが全くたまらん。
前半の日常生活を描いた余りにも淡々とした描写のトーンが絶望後の半分以降も続いて、観ているとじわじわと効いて来る。
映画中に何度も登場する、洗車機で車が洗われるのを車内から見ているような圧迫感である。
これは中々きつかった。精神的に下降気味の時に観るとかなり辛いのは当たり前で、アッパーな時に観てもダウナーな気分になると思う、ちょっと笑えない映画であった。

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