初海2009 その3 「突きたい背中」(ボラ編、ボラフルコース)

イカとカニは捕獲したものの取るべき魚が見つからない。キジハタもイシダイも見かけず、メバルは十センチちょっとと小さすぎる。一度だけ遠巻きにこちらを伺う巨大チヌと遭遇するも、寄りきらずに海の彼方へ去っていった。
今日の漁獲は頭足類と甲殻類だけで魚類なしか…と思いながら浅場を移動中に、海底付近のテングサの林に頭を突っ込んで何物かをムシャムシャ食べている、まったくこちらに気づいていない巨大ボラを発見した。
本当に野生動物なのかと疑うくらいに無防備すぎる。無条件に大人を疑いの目で見るように教育された最近の小学生のほうがよっぽど警戒心がありそうである。
魚突き人の間でボラを突く事はとても恥ずべきことであるのだが、ちゃんとした魚を狩っていない状態であの無防備な背中を見ていると、突きたい欲求が膨れ上がってくる。
これはもう「突きたい背中」である。結局欲望を抑えきれず、ちゃんと食べるから良いか。と捕獲決定。
20090619bora.jpg 頭を一突きでキルショットと行きたいところだが、藻の中で頭が見えないので十分に間合いを詰めたうえで背鰭の基部にフルパワーの一撃。もうほとんど辻斬りのようである。
ガンガン暴れるのを藻の上に押さえつけて、指ストリンガーで魚を掴んでヤスを抜いて浮上する。ナイフを抜いてまず脳天に一撃、そして鰓蓋から脊椎に向けて刃を差し込んで大動脈一閃、ついでに鰓を毟り取り、活け〆と血抜き完了。ゆらゆら沈んでゆく鰓に群がるベラやカサゴ、ギラギラする水面で手の中で血に染まって死んでゆく魚の血煙で染まる海に酔う。
同じような状況でもう一匹追加して、計二匹の70センチくらいのボラを腰にぶら下げる。イカとボラあわせて本日の捕獲率は100%である。3ショット3キル!さて、こいつをどうやって食べるか。


釣りをする人の間では食べ物ではないという扱いを受けているボラであるが、綺麗な海域のものをちゃんと血抜きしてちゃんと内臓を取って下処理して食べればとても美味しいというのも良く聞く。
海岸で鱗を落とし、内蔵を摘出して可能な限り綺麗に洗う。鱗と内臓を落とした状態で、「ボラのヘソ」あるいは「そろばん」と呼ばれて珍味とされる胃の幽門と一緒に家に持ち帰った。
写真の「鱗落とし」はちゃんとしたお店で買った真鍮製のもので気持ちよくバリバリ落ちる。
包丁の背や百円ショップで売っているようなものを使うのとは雲泥の差である。
可能な限りぬめりを落とし、腹部の内側の脊椎に沿って走る大動脈の外膜を破った上で、歯ブラシやたわしを駆使して可能な限り血合いや良くわからない汚れを落とす。これだけでかいと動脈に残っている血の塊も侮れない臭みとなる。これボラ?っていうくらいにぴっかぴかにして綺麗にする。
ここまでくればボラ自体は余り匂わない。肉質自体はタイに近いものがある。後は三枚におろして、アラと食べる部分に分ける。
刺身にすると白身と血合いのコントラストが綺麗である。
釣りをする人間は「ボラを食べている」と考えると、何か「スカンクの肉を食べている」ような生理的な拒否反応が起こりそうになるのだが、そこをぐっと押さえて食べてみるとまったく臭みを感じずにとても美味しい。タイと称してボラを出す旅館があるというのも頷ける。ボラに対する偏見がない人は、美味しい美味しいと喜んで食べるのが可笑しい。
とりあえず、臭みを消す料理として、カルパッチョ、南蛮漬けにしてみたが文句なしに美味しい。巨大ボラなので肉が分厚く食べ応え満開である。
さらに残ったアラを湯通しした後、きつい目の生姜と一緒に味噌汁にしたのも絶品であった。
結局、ボラの刺身、ボラの洗い、ボラカルパッチョ、ボラ南蛮漬け、ボラ生姜味噌汁と、もうボラフルコース状態だったのだが、どれも文句なく美味しい。しかしこれだけ巨大なのが二匹もいると食べても食べてもボラが減らない…
ということで、次回からは積極的にボラを狩っていこう!ただし一匹だけ…
で、作り方、
ボラの刺身、ボラの洗い:
さく取りして皮を引いたボラの身を薄くおろす、そのまま氷水にくぐらせて身が収縮すれば洗いになる。
でも、厚い目に切ってガリガリした食感で頂く方がいいかも。
皮付きのままキッチンペーパーを被せて熱湯を注いで霜皮造りにもしてみたが、これだけでかいと皮が分厚すぎてグニグニ…
ボラカルパッチョ:
1、にんにくスライスをオリーブオイルで揚げる。良い色になったらにんにくを取っておく。
2、キュウリと玉ねぎの薄切りを皿に敷く
3、皮を引いて刺身状にしたボラの身をその上に並べる。
4、バジルの葉と揚げたにんにくスライスを振り掛ける、レモン汁とオリーブオイル、塩コショウを混ぜたものを振り掛ける。
5、冷蔵庫でよく冷やして食べる。
ボラ南蛮漬け:
皮付きのボラの身に片栗粉をまぶして揚げる。
三杯酢+だしを入れたボウルで人参、玉ねぎ、キュウリなどの細切り野菜と混ぜ合わせて終了
ボラ生姜味噌汁
湯通ししたボラのアラで出しなしで味噌汁を作る。
適当に切ったねぎとちょっと多い目の生姜を入れる。
おまけ、ボラのヘソの塩コショウ炒め:
適当な大きさに切ってこれでもかとよく水洗いした「ボラのヘソ」を塩コショウで炒める。
砂肝のような食管と味で、確かにこれは珍味である。
とても魚を食べていると思えない。
20090619boracourse.jpg写真はフラッシュをたいてしまったので写りが悪いけど、ボラ料理+カミナリイカとサザエの刺身+カミナリイカの天ぷらである。
右上が「ボラ生姜味噌汁」、その左が「ボラのヘソの塩コショウ炒め」、白い皿の上の茶色い皿が「ボラカルパッチョ」、左下が「ボラ南蛮漬け」である。

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