シュレディンガーのシジミ / 私はシジミ、シジミちゃん

二枚貝を飼うのは難しいと聞いていたのだが、以前持って帰ったシジミはちゃんと生きている。
生きているといっても、砂に潜ったまま延々と出てこないので、時々死んでいるのじゃないかと不安になって掘り返し、「殻が閉じてるので生きてるんやな?」と砂の上に置いておくとまたいつの間にか砂の中に潜り込んで姿が消えてるので「あ、やっぱり生きてたんや」と確認できる程度であるのだが…
この砂の中が大好きな、鑑賞の対象としては全く不向きな、生きているのか死んでいるのかは観測するまでは分らない、まるでシュレディンガーの猫のようなペット、それがシジミ。
いうなればシュレディンガーのシジミである。
で、全く飼いでのないペットではあるが、二枚貝の行う水の浄化作用は素晴らしいという話を聞いて、メイン水槽とサブ水槽にもシジミを入れたくなった。
シジミを捕獲すべく、ウナギドッグを作った日、暮れようとする夕闇の中、ズボンを膝までめくり上げて琵琶湖に入った。
しかし、膝までの深さまで水に入って網が届く範囲の水底は石ばかりでシジミが全く採れない。更に沖に向かって歩かねばシジミの生息域の砂地には届かないのだ。
こんなこともあろうかと用意していた海パンに履き替え、上半身裸になって、網を持って琵琶湖に入る。
水の外では肌寒い程度だったので大丈夫だろうと高をくくっていたが、水の中は寒すぎた。
よく考えれば十月半ば過ぎに水に入るのはどう考えてもおかしい。
肩まで水につかりながら震える手で網を振るって水底の砂を手当たり次第にすくい、シジミがいくつか網に入ったのを確認して水から上がる。
焚き火で体を乾かして暖めたがこれはもう寒すぎる。
「焚き火を飛び越えて来なさいよ!」と潮騒の百恵ちゃんの真似をする余裕もないくらいである。


で、その殆ど風邪をひきそうになりながら捕獲したシジミ数匹であるが、家に帰って水槽に4匹ずつくらい投入してみた。
水槽に入れて風呂に入って戻ってくるともう砂に潜ってしまって姿が見えない。
せっかく苦労して採ってきたのに何とも愛想のない奴等である。
なんだか無性に腹が立ってきたので、いっそ掘り返して味噌汁の具にでもしてやろうかと思いつつも、とりあえず今日のところは布団に入って電気を消して寝ることにした。
数時間後トイレに行きたくなって目が覚めて、トイレから帰ってきてから、ふとライトで水槽の中を照らしてみた。
するとどうだろう。シジミたちがちょこっと砂から殻を出して水管からせっせとエサを漁っているではないか。
20101017sijimi.jpg
昼間は砂に潜って夜になるとゴソゴソ這い出てきてご飯を食べる。
なんかもう夜に家族が寝静まると起きて来て冷蔵庫を漁る重度ひきこもりの生活そのものではないか!
そう考えると、寝る前までは味噌汁の具にしたくなるほど憎たらしかったシジミも、なんか他人とは思えないほどの親近感が湧いてきたのであった。
「私はシジーミ、シジミちゃん。今日も元気だご飯がうまい。」
「それでもシジミは今日も行く」

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