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2013年7月10日

換気扇を修理する。前編/逆噴射換気扇の死と再生「死」編

何週間か前から家の換気扇が何かの拍子に時々「ギョェ~」とすざましい音を立てるようになった。

いつもは「ふんふん~」と機嫌よく回っているのだが、ふと何かの拍子に突然「ギョェ~」と鳴き出すのだ。回せば必ず鳴るとか、こういう操作をすれば鳴るとかいった法則性を特定することはできず、何日も鳴らないかと思えば、一日に数回鳴り出すこともある。

まるで、ふと自分の中学生時代の恥ずかしい言動を思い出して「あ"あ"~」となったり、ちょっとした事で激高し隠し持ってる軍刀を抜いて暴れだす元帝国軍人のお爺ちゃんのような、妙に人間くさい印象を受けるその換気扇を、私は心の中で「逆噴射換気扇」と呼んでいた。

その逆噴射換気扇が「ギョェ~」と騒ぎ出すと、私は彼のそばに行き、紐に連動しているスイッチを引っ張って回転を止めてやり、「はいはい今夜はカレーね~」とか「はいはいお爺ちゃんお薬ですよ~」とばかりにモーターのシャフトの根元に潤滑オイルを吹いた後に再びスイッチを入れてやる。

そうすれば、逆噴射換気扇はまた何事も無かったように「ふぉ~んふふふん~」と回りだすのだが、暴れだすと「落ち着く薬」を投与され、それでも休むことは許されずに回し続けられる逆噴射換気扇をずっと不憫に思っていた。

何かあるたびにその根本問題を解決することなしに「落ち着く薬」に頼っていれば、その量がどんどん増え、より強い薬を要求し始め、やがてその薬なしではいられなくなるのは人間も換気扇も同じである。

最初は、一家に一本安くてたっぷり呉工業の「CRE 5-56」で何日も機嫌よく回っていた彼はそれではすぐに叫びだすようになり、やがてそれよりは遥かに高価な、私の家で自転車用万能オイルとして利用されているwako's の「メンテルーブ」を要求するようになり、そしてつい数日前から、量の割に無茶苦茶高いので勿体無くて殆ど使ったことの無いRESPOの 「チタンスプレー」を文字通り浴びる様に添加されることなしに数時間とまともには回れない体になってしまった。

もう彼はどこから見ても立派な「浸透系潤滑オイル依存症」である。そうなると私はちょっとしたアダルトチルドレン気分ですなぁ。

時たま騒ぎ出すくらいなら可愛いもので面倒を見られたけど、さすがにしょっちゅう騒がれるともういやになってくる。私の人生は換気扇のモーターにオイルを注すためにあるわけではないのだ。

直ぐに「ギュォ~」と騒ぎ出す逆噴射換気扇にRESPOチタンを吹いてやりながら「あ~完全に壊れたか。もうあかんな。換気扇として完全に終わった。」と「逆噴射換気扇」を過ぎ去ってゆくものとして認識し冷たい目を向けながら彼を捨てるタイミングを考えている自分に気付く。

本来ならただの換気扇でしかない「逆噴射換気扇」の一生と、私と逆噴射換気扇の共依存関係はそこで終わりを告げて、新しいぴかぴかのうら若き換気扇が替わりにやってきて「ふゆゆ~ん」と回り始めれば全ては忘れ去られて丸く収まるところである。

しかし、今までなんとか頑張って面倒を見ていたものを見限ることを決心し、そいう心境のままその逆噴射換気扇の発する「ギョェ~」を聴いていると、やがてその声は「ぐぉ~!殺せ~殺せ~!」と聞こえてくるのが不思議である。

見捨てられたことを悟り、自らの限界を悟り、決して一人では生きてゆけないことをはっきりと理解しつつも、それでも死に切れず「ぐぉ~!殺せ~!殺せ~!殺してくれ~!」と泣き叫ばずにはいられない逆噴射換気扇を見ているとなんだか胸を締め付けられる思いがする。

どうせ壊れてしまったのなら、どこが壊れているのか、なぜ壊れてしまったのかを見届けたいと思うのが人間の性である。

そして、もし彼の中で何が起こっているのかがちゃんと理解できれば、もしかして彼を元のように戻す方法が見つかるかもしれない。彼が元に戻ろうとする手助けが出来るかもしれない。

しかし、経験的に回転軸を持つ機械製品は異音がし始めたらその時点でほとんど終わりであると思っている。シャフト、ベアリング、軸受けのどれか一つでも歪み割れ磨耗すれば手の施しようが無いのだ。

古いワンオフで作られた製品は交換部品も代替品も手に入らないことが多く、とてつもない精度で構成された絶妙のバランスで成り立っている部品を手で修復することは不可能に近い。異音を発する時点でどこかが根本的に決定的に損なわれていると考えたほうが良い。

分解しても何も分からないかも知れない。何かが分かっても何も出来ないかも知れない。もし何かが出来たとしてもそれで治らないかも知れない。

人間の抱えるほとんどの欠点や問題と同様に、換気扇のモーターの故障について何かが分かったところで、たとえ何かが出来たところで、元のように直ることは稀だろう。

それでも、徒労に終わろうとも、死に瀕してなお自ら死を望んでいる逆噴射換気扇を分解してみることにした。

私が逆噴射換気扇を理解できるか、何が出来るか、治すことが出来るか、その結果が重要なのではない。

逆噴射換気扇にとっては私が彼を必死で全力を尽くして理解しようと試み、何が出来るか試み、治そうと試みた、彼が直ろうとすることの手助けをしようとした事実そのものの方がはるかに大事なのだ。

電源を入れれば叫びだす彼は少なくとも生きることを望んでいる。そんな彼を何もせずに見殺しにすることは出来ない。

そして、なによりも、諦めたらそこで試合終了ですもの。

死なせはせん!!ただでは死なせはせんぞぉ!!

と、前置きを書いているうちに、なぜか妙な話と方向になってきたのでこのまま前編にしたw

「換気扇を修理する。後編」へ続く

  

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