大原美術館に行く/間口が広く奥も深い/美術品を観るとは何か?

岡山に行く用事があったので、時間を作って倉敷の大原美術館に行って来た。今まで一度も行ったことが無くずっと行きたかったのだ。

大原美術館は1930年に、実業家の大原孫三郎がスポンサーとなって援助していた洋画家の児島虎次郎に託し収集した多ジャンルの美術工芸品を展示するために、まだ日本に「美術館」なる概念が殆ど無かった1930年に開館した、西洋美術、近代美術を展示する美術館としては日本最初の伝統ある美術館である。

展示品は紀元前1000年くらいの中国の副葬品からイランやエジプトの古代オリエント美術品、仏像からギリシャローマの装飾品、大原美術館と言えばコレのエル・グレコのルネサンスから19世紀印象派なモネの「睡蓮」、ピカソなキュビズムやらルオーの野獣派やあんちゃん藤田嗣治、日本の焼き物から棟方志功の書からガンダーラの仏像まで、ありとあらゆるジャンルの美術工芸が大量である。

この大原美術館は倉敷観光のメインスポットなので、滋賀県の佐川美術館やウィーンのアルベルティーナのように観光地化して美術館としてビミョーな雰囲気になっているのを心配していたのだが、そんなこともなく、広い敷地の中に西洋絵画がメインの本館、近代美術館的な分館、そして工芸・東洋館、児島虎次郎記念館や庭園を備えており、休み休み真面目にまわれば半日くらいはかかってしまうだろう。

 

私がこの大原美術館で一番に’観たかったのはルオーの「道化師」

だったのだが、

一番衝撃を受けたのは熊谷守一が幼くして死なせてしまった次男を描いた「陽の死んだ日」だった。

この絵は家にある画集で何度も見ていたけど、画集で見るとのと実物を観るのとではやっぱり全然違った。余りにも衝撃を受けたので、この熊谷守一についてはまたエントリを改めて何か書いてみたいですな。

あと、紀元前10世紀レベルの中国の美術品やインドや中国の石窟から切り出してきた仏頭やら石仏が素晴らしかった。

経験的に美術鑑賞初心者は無秩序に並べられた常設展のような展示を眺めるより、きっちりしたテーマと方向性で厳選した展示品の企画展を観た方が得るものも多く疲れなくて良いと思っていたけど、決してそうとうは言い切れませんな。

この大原美術館のように幅広いジャンルの展示品を、年表も解説もほとんど無しに並列的に冗長的に時代やジャンルで区切って並べる方向性は、「美術館の美術品を鑑賞する」というよりは「美術品のある美術館を鑑賞する」観光美術館としての作りを意識しているのかもしれない。

でも、ただ数を集めただけでなく、特定のジャンルにこだわり過ぎない網羅性だけでなく、その個々それぞれの質の高さにびっくりである。

これだけ色々ジャンルの質の高いものが集まっていれば、美術工芸品に興味が無い人でも何かしら琴線に触れるものが一つや二つはあるに違いない。

倉敷地区ではほどんど外国人観光客を見なかった割には美術館内では結構外国人を見かけたことからもコアな美術マニアを海外からも引き寄せるポテンシャルを持っているのが良くわかる。この大原美術館は観光美術館としてとても間口が広いけど、よくよく見れば美術館として奥も深いのだ。

個々の質の高い作品を見ることもできるし、世界の美術史を作品の具体例で学ぶ事も出来る。美術館で美術品を観るにしても本当に色々な見方や方向性があるのだということを改めて意識したような気がする。

この大原美術館のWEBページは中々に親切で、所蔵品の詳細リストだけでなく、現在他の展覧会に貸し出し中になっている作品リストがとてもアクセスしやすい位置にあるので、事前にこれを見ておけば、私のようにウィーンの美術史美術館でブリューゲルの素描が観たかったのに行ってみたらどこにも見当たらず、後で東京の美術館に貸し出し中だった事を知ってズコーとなるようなことが避けられますぞ。

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