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2014年1月8日

実物を見る

先日大原美術館で熊谷守一の「陽の死んだ日」を見てかなりの衝撃を受けたことを書いた。(そのときのエントリはこちら)

熊谷守一の画集が家にあったので、この絵もその画集の中で何度と子どもの頃から観ていたのにも拘らず、実物で観ると全く違う絵のように迫ってきたのだ。

同じように、以前ウフィツィ美術館の自画像コレクションで草間彌生の自画像の巨大な実物を見て初めて、今まではちょっとぶっ飛んだ人くらいにしか思っていなかった草間彌生に心底揺さぶられて彼女に興味を持ち始めたのだった。

逆に、ウィーンのレオポルド美術館でクリムトの「生と死」を観た時も、ベルヴェデーレ宮殿で「接吻」を観た時も、そしてウィーン分離派会館のゼッセッシオンでベートーヴェン・フリーズを観た時もフーンという感想以上のものはなかったということもあった。

これは期待が大きかったから失望したのかといえば、同じくらいに期待していたエゴン・シーレの絵画群にはとても感動したのでそうともいえない。

絵やら「アート」と呼ばれるものでも、実物で見るのと画集やら写真といった2次情報とまでは言えない1.5次くらいの情報でもコレだけ受け取り方も感じ方も違うわけである。

我々は日々生きている中で様々な情報に接する。もう21世紀の高度に進んだ情報化社会であるから、当然その殆どが2次以上のその高次元の情報であり、それを元にはコレはいる、コレはいらん、コレは良い話、コレは悪い話、コイツは好き、コイツは嫌い、などと判断することになる。

とはいえ、我々は何かしらの情報に対して疑問を抱いたとしても、全ての情報についてその先を知ろうとは思わないし、ましてや1次情報にあたろうとすることなどほとんどない。

例えば、ステアー AUG A1を持つシリアの反政府組織の写真を見て激しく違和感を覚え、それをどこから手に入れたのかについてとても興味を持ったとしても、その事についてどこも報道していないからといってさすがに現地に行ってまで聴く気にはならなかったり、芸能人のだれそれとだれそれの熱愛が発覚したというwebニュースの見出しを見たからといってその記事を読むために記事へのリンクをクリックする気にすらならない場合もある。

とても興味のある事柄だけど、その情報を得るためにはコストが余りにも高すぎる場合は諦めたり「サウジ?」などと推測に留めざるを得ないし、逆に自分にとって余りにも価値の低い情報はマウスでポチッとクリックすることすらコストが高すぎると感じるわけで、なにかしらの情報に対する興味の度合とそれを得るためのコストにはバランスがあるわけである。

よくネット上で、ツイッターやらブログやらSNSでどう考えても嫌いになる要素が無いのに、特定の人を激しく嫌ったり憎んだりして、ちょっとした言動の言葉尻を捉えたり妄想とも言えるほどの拡大解釈をしてひたすら叩きまくるアンチと呼ばれる人がいる。

誰か特定の人と直接喋って何かを聞くことが1次情報だとすれば、その人の自分に向けられたのではない言動だとか伝聞を直接だったり間接だったりして得た情報もいわば1.5次以上の高次情報となる。

そしてそういった高次情報を解釈したり分析して、はたから見ても良くわからないほどに人を嫌ったり憎んだりしてしまうのも、高次情報を推測したうえでの読み違えであることが多いのではないかと思うし、実際にその人と面と向かって話せば殆どの場合は何かしらの誤解だったことが判明するのではないか、アンチの人もその人本人と喋ることができれば意外に仲良くなれるのではないかと思う。

とは言え、沢山のアンチを持つ人がいちいちそんな人たちに対して釈明したり語りかけたり返事したりする事は殆ど無い。

それはその人自身が、アンチと呼ばれる人に激しく憎まれている状況を解消しようとすることに対して、ささやかなコストを払うほどの価値すら認めていないということを図らずも表明していることになり、そのこと自体がアンチをますます憎しみと怒りに駆り立ててしまうという哀しくも滑稽な悪循環が生み出されてしまっているように見える。

しかし、自分にとって実質的な利害関係が無いにも拘らず一方的にその人を憎んだり嫌ったり嫌悪してしまう場合、1次情報はその嫌い憎む相手の中にあるとは限らない。むしろ「嫌ったり憎んだり嫌悪している自分」こそが1次情報であり、その中にこそ嫌いや憎しみや嫌悪の対象の実物が存在している可能性がある。と考えてみることは何かしら有用であるような気がする。と人事のように思うのであった。

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