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2007年8月16日

『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』アンドラーシュ・シフ

アンドラーシュ・シフの『ゴルトベルク変奏曲』を聴いた。
グレン・グールドでない『ゴルトベルク変奏曲』を始めてちゃんとゆっくり聴いたのだが、『ゴルトベルク変奏曲』についてはネット上でいろいろな人が色々な演奏家の物を聴き比べて色々な評をしているけど、このシフの演奏についても大体私もたいてい言われるような印象を持った。
つまりグールドのものと比べて、変な緊張感とか切迫感とか差し迫った所は無く、とてもまろやかでエレガントで、聴き疲れしないということである。
音と音が繋ぎ目無く綺麗に敷き詰められて、反響音が大きく、刺激的な音は少ない。グールドの演奏とはまったく違う印象である。
まったく違う印象ではあるけど、とても心地よい。


しかしながらやっぱり個人的にも世間的にも『ゴルトベルク変奏曲』についてはグールドの演奏が基準になっているので、「グールドの演奏と比べて・・・」という評価が多くなってしまうけど、この曲はもともと不眠に悩まされていた貴族が聴いている内に眠くなるように作られた曲であるので、シフのこの演奏は本来の曲のコンセプトに沿っているのかもしれない。
こうったリラックスした心地よい演奏は、この曲はもともとこういう曲なんじゃないかと思わせるところがあった。
シフの演奏したり発表したりしている録音やライブのリストを見れば彼がバッハ弾きであるのは良く分かるし、彼のまろやかでエレガントな演奏は宮廷音楽家であったバッハ的と言えばバッハ的なのかもしれないけど、私にとってのこの曲はやっぱり強烈に情念的なグールドのピアノになじみすぎていて、シフの演奏を「この演奏は違う」と思ってしまう。
グールドの亡霊の憑依がいかに強力であるのかが良く理解できた。
グールドの演奏は常に自分自身をしか意識せず自己表現に徹しているけど、このシフの演奏はとてもバッハを意識しているような気がする。何度も何度も聴いていると、グールド的ではない、この曲自体が本来持つ素晴らしさが染み込んで来る。
「天下一品のこってり」がラーメンででありながら「ラーメン」でなく「天一」とカテゴライズされるように、グールドの弾く『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』や『モーツァルト:ピアノソナタ第8番イ短調』は『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』や『モーツァルト:ピアノソナタ第8番イ短調』ではなく「グレン・グールド」でしかありえないのだ。
そういう意味でこのシフの演奏は『ゴルトベルク変奏曲』をじっくり味あわせてくれる、グールドの亡霊を成仏させるにふさわしい端正で素晴らしい演奏である。
もちろんグールドの演奏は変わらず大好きやけどね。

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