荻須高徳展/油絵鑑賞が捗る京都伊勢丹方式展覧会

京都駅の伊勢丹の7F「美術館えき」でやっている「生誕110年記念 荻須高徳展 ~憧れのパリ、煌めきのべネチア~」に行ってきた。
荻須高徳は人生の殆どをずっとパリで過ごし「日本生まれのパリ人」と評された佐伯祐三と同年代の洋画家で、文化勲章も受けている。
「荻須高徳」といってもそれほどメジャーな人ではないのでそんなにピンとこないかも知れないけど、この絵とこのサインは見たことのある人は多いのではないだろうか。
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この展覧会はパリとヴェネチアと人物画や静物画の三つのテーマで構成されていたが、パリはいかにも観光地としてのパリ然としたものではなく人々が暮らす町としてのパリを、ヴェネチアはさすが水の都というだけあって絵の殆どに運河が描かれていた。


パリの絵では商店に並ぶ鍋や果物がやたらと飛び出してくっきり見えるような印象を受け、
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ヴェネチアの絵は運河の水面のゆらゆらした感じが綺麗で、荻須高徳の視点が伝わってくるようであった。
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そして人物画や静物画は彼自身が絵について語ったことが解説としてついているものが多く、彼がどういう風に対象を見てどう描いたのかが説明的に書かれていて面白かった。
風景画は絵は実際の風景よりも縮小されているけど、人物画や静物画は殆ど「1/1スケール」に近いのでついつい細部に目が行ってしまう。
順路の最後の方の絵で麦の穂をくくってある藁がやたらと強調されてリアルに飛び出して見えたので「えらい飛び出して見えるなぁ」と思って顔を近づけて見たら、「見える」のじゃ無く実際に油絵の具が盛り上がっていて「ズコー」であった。
荻須高徳自身の解説として、「日本画は線で描く絵だが、油絵は面で描く絵である」というような類のことが書かれていたのだが、
風景画などの場合は遠くから全体を見るとちゃんとした形と色を持った絵であるけど、近づいて細部を見るとただの色の塊の集合で絵全体が構成されていることが良く分かるし、人物画や静物画の場合は色の濃淡だけでなく実際の絵の具の凹凸でも陰影を感じられるような、いかにも油絵といった感じの質量感が味わえる。
また、人も少ないのでゆっくり見えるし、ガラスケースに入っていないものも多いので、ギリギリまで接近して見ることも出来る。
そして展覧会に良くある人物の人となりや歴史などを紹介するパネルが展示場の外にあり、中は純粋に絵だけしかないので、絵の展覧会で絵じゃなく説明パネルに人だかりが出来るという、ありがちだが良く考えれば不思議な光景も無く鑑賞が色々捗る。
また外に紹介があるということは、パネルだけはタダで眺められるので、もともと展覧会に行くつもりじゃなかった通りすがりの人を引っ張り込む効果もあるかもしれないし、切符を買う前にパネルだけを観て入るかどうかを決めることも出来るのでこの「説明パネルは外」の伊勢丹の展覧会方式はなかなか良い感じである。
ということで、油絵の良さをストレートに味わうなら、この「生誕110年記念 荻須高徳展 ~憧れのパリ、煌めきのべネチア~」はなかなか良い展覧会ですぞ。

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