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2009年11月4日

高野文子『黄色い本 ―ジャック・チボーという名の友人』

黄色好きの私だから、ということでもないが、『棒がいっぽん』 『絶対安全剃刀』 に続いて高野文子の『黄色い本』の感想をば。
『棒がいっぽん』 から8年後の2002年に発売された彼女の本の中では最も新しいもので、2003年に第7回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞しているらしい。
読む前に、何でも「読書体験を漫画化している」ということを聞いていて、いまいち意味が理解できなかったのだが、確かに読んでみると、これはもう確かに「読書体験そのものを漫画化している」としか言いようがない。
ストーリーは、卒業間際の高校生が図書館から借りた『チボー家の人々』 を読み進んでゆく日々の日常が主人公の少女の目を通して淡々と描かれているだけなのだが、長編小説に没頭する日々の小説内の世界とリアル世界との距離感や関わり、主人公をめぐる色々な事が暖かく表されていて、読書好き、特に純文学好きの長編小説好きにはグッと来る内容であった。
そして、逆に本を余り読まない人にとっては、本好きが没頭して本を読むというのはこういう経験なのかというところがお分かりいただけるだろう。


この主人公の少女を通して表現されている長編小説を読んでいる期間の心の揺れや現実感覚や世界の見え方、そして読み終わった時の達成感がありながらもどこか物悲しい感覚、自分で買った本ではなく、卒業間際で図書館から借りて、期限つきで急いで読んでいるという設定がまた良い。
本を表現するのでもなく、読書を表現するのでもなく、抽象概念で修飾される抽象概念とも言うべき「読書体験そのもの」が本当に見事に表現されていると思う。
『棒がいっぽん』でも漫画でこういうことが表現できるのかと驚いたけど、この本でも本当に驚いた。主人公に対する感情移入ではなく、主人公の感覚や経験に対する感情移入という不思議な感覚である。
高野文子はこの「ジャック・チボーという名の友人」の制作に3年を費やし、これを最後の作品にしようと考えていたらしい。
たしかにそういって良いだけの渾身の素晴らしい作品であると思う。



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