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2013年7月12日

換気扇を修理する後編/逆噴射換気扇の死と再生「再生」編

このエントリーには「前編」があります。お読みで無い方はこのエントリーを読む前に前編のこのエントリー「換気扇を修理する。前編/逆噴射換気扇の死と再生「死」編」を先にお読みになるとよろしかろう。

さて逆噴射換気扇の分解に着手するために、換気扇を丸ごと壁から外した。枠を外し羽根を外し、どんな状態だったのかとモーターのシャフトを手で回してみる。

まるでモーターとは思えないそのゴリゴリした感触は、回転軸というよりはすり鉢で小石をすり潰そうとしているようである。モーター本体も触ると火傷しそうな位に熱くなっている。ためしにそのまま電源を入れて回してみると、意識を取り戻した彼はやはり羽根なしでも「むぉ~!殺せ~!殺してくれ~!」と叫びだす。

「うぬはこんな体で戦っていたのか!」とますます「逆噴射換気扇」の陥っていた状況に心は痛むばかり。そっと電源を抜いていざ分解を始めたものの、やはりモーターの分解が手ごわかった。

モーターを換気扇本体から下ろしたまではよかったものの、モーター内部をを前後から覆っているハウジングはネジではなく三本のリベットが打ち込まれて固定されている。「この三本のリベットはもしや、うぬはこの俺に分解してはいけないと言いたいのか?」

しかし「分解するなよ!分解するなよ!絶対に分解するなよ!」という通常の否定2回に強い否定が続くと「必ず分解してください!」という強意の要請の意味になるという文法法則に従い、そのリベットのハトメ状になった部分を削り落とすべくニッパーとやすりとドリルで挑みかかる。「ふはは~ゆくぞ!」

リベットの素材がアルミだったのが幸いしてあっけなくハトメ部分は削り取られて陥落、そして頭のなくなったリベットはもはやノーガード状態である。無残に抉られたリベットの傷口に今度はピンポンチをあてがい、ハンマーをガンガン叩き込んで強引にリベットを穴から押し出す。「ふはは~これでもくらえ~」

三個のリベットによるプロテクトを難なく突破され、ハウジングは見事に二分割されモーター内部が露出する。「ふはは~あとがないぞ~」

さていよいよ異音の大本であるシャフトをローター部から引き抜ぬくのに邪魔になる、羽根をシャフトに固定するためにシャフトへ直角に打ち込んであるピンをこれまた真横からピンポンチで叩いて抜く。

しかし、簡単にピンは抜けたものシャフトは前後に動くだけで抜けない。これはおかしい、モーターなら構造上ここですぽっと抜けるはずである。

中で何かが引っかかっているだけか?それとも最初からこういう構造か?しばらく押したり引いたり捻ったりしてみたものの、抜けそうになるものの後一歩で抜ける気配が無い。

普通に引っ張って抜けない以上、これを抜くためにはハンマーで叩くなりペンチで引き抜くなり外部から強引に力を加えて抜くしか選択肢はない。

でも、もしこれが最初からこういう構造に設計されていたのなら、シャフトを強引に抜いてしまうのはその構造を不可逆に変形させてしてしまうことにもなる。そうなるとたぶんモーターそのものを根本から壊してしまうことになるだろう。

「うむむ、これでは手が出せぬ!もはやこれまでか!」と分解され内部を露出させられてあられもない姿になっている「逆噴射換気扇」を見つめながら頭を抱えていると、脳内に直接声が響く。

(きこえますか…きこえますか…私は…貴方が逆噴射換気扇と呼んでいる…モーター…です今… あなたの…心に…直接… 呼びかけています…このままでは…換気扇として…まともに働くことは…できません一度捨てると決めた命…です…貴方の手によって壊されるなら本望ですどうぞ…おやりなさいどーんとどーんとどーんといこうや)

その声を聞いて私の決心は決まった。「うむよく言った!ふはは~ゆくぞ~覚悟は良いか~」

ローターを万力に固定してシャフトを真正面からハンマーで叩いてみる。しかし予想以上に簡単に抜けた。簡単と言うよりも強く叩く前のコツコツ位で抜けてしまった。何かが壊れたような感触も無いしこの方法でたぶん正解だろう。

異音はどうせ割れたベアリングでも鳴っているのが原因だろうと思っていたのだが、開けてみるとこのモーターはベアリングが無いタイプで、ジュラコンのような素材のワッシャーやブッシュと金属製の軸受けだけでシャフトの回転部を受け止める構造であった。

しかし、内部はオイルやグリスの痕跡も無いくらいにカサカサで、しかもステンレスのシャフト以外は錆だらけである。

シールドされたモーターではあるけど、どこからか水が入り込んで錆付いてしまったのだろう。シャフトを回したときのゴリゴリ感とシャフトがローターから抜けなかったのはこの錆のせいに違いない。

もしかしたらこの錆を落とせば治るんじゃないか?と一つの希望が目の前に浮かび上がる。

ということで、コアに浮いた錆を紙やすりとワイヤブラシで削って落とし、各部にこびりついている錆のようなカーボンのような残骸を落とし、可能な限り綺麗に各部を洗い、最後に軸受け部分にこれでもかとモリブデングリスを塗りこんで仮組みしてみる。

シャフトを指で回してみると当初のゴリゴリ感が嘘のようにヌルヌル回る。茹でて薄切りにしたオクラにポン酢をかけてかき混ぜるくらいの軽やかさだ。

配線をつないでスイッチを入れてみると「む~ん♪」とほとんど無音で回りだす。さっきまでの逆噴射ぷりが嘘のようなステルス性能である。「うぬすっかり治っちゃったね」

ということで、元のようにシャフトにピンを打ち込み、削り取ったリベットの替わりに適当なサイズの合うボルトとナットでハウジングを固定し、羽を取り付け、組み立てて取り付けてて電源を入れてみる。

羽が無い状態で「む~ん」と静かに回ったものが羽を取り付けられて回ると「グォ~ォ~!」と今まで聞いたことの無いような恐ろしい音と勢いで回り始める。

今まで錆で押さえ込まれながらも油気なしでかろうじで回っていたモーターが、グリス満載で何の抵抗も無く回りだすとこれほどのポテンシャルを発揮するのかと驚くばかり、大トトロが叫ぶかのような風切り音を出して本気で回る元「逆噴射換気扇」の回りっぷりはちょっと怖いくらいだ。

今まで絶望の淵にいて死を思いつめてような人が突然躁転して、むやみにポジティブに、むやみに活動的になったりすると、総じて危なっかしく見えるように、元「逆噴射換気扇」の回りっぷりは、一般的な換気扇としてもちょっと回りすぎのように思えて、見ているだけでドキがハラハラするほどにムネムネする。

しかし、よく考えてみれば、錆だらけでしばらく回っていたモーターは錆が研磨剤となって角という角が削り取られてつるつるのぺたぺたのつやつやになり、その錆さえ落としてしまえば出荷時より回転抵抗が遥かに低くなっているに違いない。そしてそうなったモーターはコアの磁力さえ落ちていなければ、最初に作られた時と同じように洗浄しグリスアップするだけでどんな同じモータよりも軽く回転するだろう。

苦難の道を歩んだ「逆噴射換気扇」は「つるつや換気扇」として生まれ変わった。「ハッピーバースデー う~ぬ~」である。

彼の長年の苦難は決してムダではなく、むしろそれがあったがゆえに換気扇として生まれ変わるほどに彼を大きく生長させたのだ。

などとモーターで人生訓を引き出しつつ、自らの力に酔うかのように「ぐははは~~♬見て見て~私こんなに回る~♫と、全てを吹き上げる竜巻のように、春の野原を駆け回る少女のように、力強くそして軽やかに回り続ける「元逆噴射換気扇」を眺めていると、なんだか目頭が熱くなるのであった。

と、換気扇を修理しただけでこんな大層な話になるのだから、人生どんなことでも楽しめますのぅ。

  

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