『グイン・サーガ』の新刊『パロの暗黒 』を読む/「物語」の怖さについて

著者が死去することで130巻で途絶えてしまっていた長大なシリーズである『グイン・サーガ』が最近別の著者によって再開された。

『グイン・サーガ』は当時はそんな区分けすらなかったけど、今風のジャンルで言えば「ヒロイックファンタジー+ライトノベル」というところで、まだ私が高校に入る前にはじめて読んでから、読む本の趣味やら傾向が全く変わってしまっても新刊が出るたびに買ってずっと読み続けていた。

この『グイン・サーガ』なる物語は、私にとって子供の頃から五年前までずっと、自分の住む世界とは並行に存在する世界であり、そしてその平行世界の国々やそこに住まう人々に対して、ある意味で現実の世界以上に親近感を抱き続けていたのだ。

そして五年前に作者である栗本薫の死去によってストーリーが中途半端なままに中断されその世界の時間が止まり、もう続きを読むことは出来ないのかと結構ショックだった。

ようやく最近になってもう読み返すことも無いだろうということで家にあった『グイン・サーガ』を全て処分して、どことなく人生のほとんどの時間を囚われていた世界から開放されたような気分でもあったのだ。

著者である栗本薫は『グイン・サーガ』なる物語は、著者の私自身の意図と関係なく著者を経由して自立的に物語られてゆくもので、私自身も私の書い た物語の読者であり、私だけの物語ではない。というような意味の事を常々言っていたし、自分の死後には誰かに続きを書いて欲しいと言うことを言っていたけど、それでも『グイン・サーガ』の新刊が栗本薫ではない別の著者により書き続けられてゆくことを知って、なんとなく死者が蘇ってきたような不吉で不謹慎な感覚がしたのだ。

しかし、いくらそんな嫌な感覚を抱いたところで、実際に新刊を目にすればそんな感覚は全て吹っ飛んで読まずにはいられなかったし、一気読みして、今までのブランクなど無かったように物語世界に没入した。とにかく新しい『グインサーガ』と触れ合えるだけで嬉しかった。もう終わった、と思っていたものが実際に目の前に現れると人間の心も感覚もいとも簡単に昔に戻ってしまうのだ。

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しかし一方でこの『グイン・サーガー』の新刊を実際読んで「物語」の持つ怖さのようなものをひしひしと感じた。開放されたと思っていた世界に再び囚われるような感覚だ。

「著作」は「著者」と独立しているということをよく言うけど、『グイン・サーガ』という物語が「栗本薫」という宿主から這い出て、新たな「五代ゆう」なる宿主を選んだ。というような感覚がする。そして新たな宿主を得た「物語」は読者も著者も容赦せずその世界に取り込んでゆくのだ。

そう、人は「世界」ではなくその「物語」の方にこそ囚われて取り込まれるのだ。

私とほとんど同い年でほとんど同じ時期に『グイン・サーガー』を読み始めたの五代ゆう氏のあとがきを読んで、専業作家である彼女にとっての『グイン・サーガー』の続編を書くことの重みをひしひしと感じたし、それでも彼女がその世界に取り込まれまいとする決意のようなものに感動した。

しかし、いくらこの『グイン・サーガ』の世界が楽しくても、それでも、やっぱり私の中で何かが終わっていることにも気付いた。新しい新刊を読みながら、なぜか過去の物語を読んでいるような気がずっとしていた。

過去を振り返るような感覚で新刊を読むというのも不思議だけど、昔を懐かしむように、昔の歌を聴くように、これからも『グインサーガー』の新刊を読んでゆこう。

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