年末年始は未来少年コナンを

amazon ASIN-B002QV1H62amazon ASIN-B000WZO7L6この年末年始は以前から観たかった「未来少年コナン」をずっと観ていた。
1978年にテレビアニメとして半年放映された、宮崎駿が初めて監督を担当した作品で、三十年以上の前とは思えないほど古臭さも殆ど感じないほどに面白かった。
30分を1話として全26話、DVDにして7枚分である。
基本的には最終戦争で殆ど滅んだ地球を舞台に、自然の中で育った超人的な身体能力を持った野生児の少年が銛一本を武器にさらわれた少女を救出し、ついでに仲間と共に世界征服をもくろむ悪玉も倒して世界も救う。という世紀末系新世紀物語で、
コナンのラナの救出劇と世界征服の野望の阻止がメインのストーリーであるが、
孤島で「おじい」なる育ての親だけと暮らしていたコナンが、漂流したラナが再びさらわれ、「おじい」が死んだのを切っ掛けに島を出て、仲間を得て、一定期間社会で暮らし、そして成長してゆく物語でもある。
そして、村上春樹のいっていたような理想的な物語である「セックスシーンのないことと、決して人が死なないこと」を殆ど問題なくクリアしている。
正確に言えば、「セックスシーンのないこと」はキスシーンも無いほどに完璧にクリアしているものの「決して人が死なないこと」は「主人公は決して人を殺さない」「主要人物は誰一人として死なない」であるのだが、それでもこれだけ子供も大人も男も女も安心して楽しんで見られるものは少ないように思う。
大人の主人公が出てくる映画やアニメや小説などの性欲と愛を混同しているとしか思えない恋愛模様に引き換え、主人公のコナンとヒロインのラナの愛情のなんと純粋でなんと美しい事とか。
綺麗だとか格好良いとかスタイルが良いとか、経済力とか職業とか社会的地位などといった理由や基準も無く、ただ単にとにかくお互いを好きであるとしか言いようの無い、独占欲や性欲の介在する余地の無い、執着でも煩悩でもない愛がそこにはある。
そして、ヒロインのラナはただコナンに助けられるだけの存在ではなく、幾度もコナンの決定的なピンチを救う存在でもあるのが素晴らしい。


私は印象深く美しいシーンがある小説や映画やマンガは間違いなく素晴らしい作品であると思っているのだが、この「未来少年コナン」にもそんな美しいシーンが満載であった。
特に、前半8話での水中拘束にあったコナンにラナが口移して空気を運ぶシーンと18話で沈んで船室に海水が流れ込む中、コナンが水中を助けに来るシーンが素晴らしかった。
8話のシーンは、このアニメの唯一の「キス的シーン」であるが、水中拘束の打開策は無いもののとにかくコナンを死なさないためにラナが空気を運んでいるうちに、ラナ自身がブラックアウトしてしまい、それを見たコナンが水中でウルウルして強力な力を発揮するというところがグッと来る。
8-2.pngラナが水中拘束されたコナンの元に向かう
8-3.pngラナが空気をコナンに与える
8-4.pngラナがブラックアウト
8-5.pngコナン水中でウルウル
8-6.png力で拘束具を破壊
8-7.pngラナを伴って浮上
そして、後半は、船室に続々と海水が流れ込む絶望的な状況で、扉が開いて一気に部屋が海水で一杯になった瞬間、助けに来ると約束したコナンが来た事を確信して笑顔で振り向くところが素晴らしい。
18-1.png船が沈み船室に海水が流れ込む
18-2.png扉が開き振り向くラナ
18-3.png海水で一杯になった船室にコナンが助けに来る
18-4.png喜ぶ二人
18-5.png船を抜けて
18-6.png二人で海面へ浮上
なんというか、水中拘束されている状況や、沈んだ船の船倉の扉が開いて海水が流れ込んでくるという絶望的な状況が、甘美で喜ばしい瞬間に変わるという所がたまらなく素晴らしく美しい。
そしてなによりも、「海中」というところが、素潜り好き魚突き好き海好きな私にとってはなんともたまらないのだ。
一応この「未来少年コナン」はアレグザンダー・ケイの『残された人びと』を原作としているが、アメリカ自由主義を背負ったハイテーンの少年を、孤島で育った野生児に、共産主義と資本主義の対決を、破壊的テクノロジーと自然との共存的なものに置き換えて、ストーリーや登場人物について大幅に脚色が加えられ、宮崎駿的な世界観と設定になっている。
コナンが能天気で力の強いだけの主人公の冒険活劇で終わるのではなく、彼が立派な考えと立派なモラルを持った青年に成長してゆくのも素晴らしいし、物語り全体には戦争だとか文明だとかテクノロジーだとか文化の伝承だとかいった、ラピュタやナウシカ的なメッセージ性もあった。
文句の付け所の無い素晴らしいアニメであろう。
見ていない人は是非見るべきである。
とはいえ、初登場であれだけ凄かったジムシーの弓矢の技が全く生かされていないところだけが、ほんの少し残念であった。

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