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2007年5月1日

ボリス ヴィアン 『心臓抜き』

以前同作家の『日々の泡』を読んだけど、その時は「シュールで耽美で何ともいえん世界」という感じでそれほどのインパクトは無かったような気がする。
でも読んでだいぶ時間がたってもクロエの肺の中に睡蓮が咲くという奇病とか「貧乏人のとむらい」とかの彼の描くモチーフがずっと印象に残ったままどんどん大きくなるような感じで、どうやら私はこの作家が好きらしいという事に気付いた。
amazon ASIN-4151200053そう言うわけもあり、ボリス・ヴィアン『心臓抜き』を読了。やっぱり私はこの世界が大好きなようだ。
今から50年ほど前の本やけど、全然そんな感じがせん。
彼の描く歎美な世界は一見、稲垣足穂に似たような感じがするけど、稲垣足穂が無機的で宇宙的で透明な感覚であるとすると、ボリス・ヴィアンは有機的で生物的でカラフルな雰囲気がするのだ。


例のごとくストーリーはあって無いようなものやけど、生まれた時から空白のままの成人で、他人の欲望で自分の空白を補おうとする精神分析医が変な村に迷い込む。
その村は老人が市場で競にかかっているわ、子供や家畜を虐待するのが習慣であるわ、司祭と悪魔がボクシングをするわ、木は抜かれる時に泣き叫ぶわ、青ナメクジを食べると空を飛べるわ、金を貰って村人の恥を恥辱で消化する河原者がいるわ、もう滅茶苦茶シュールな世界。
空白の精神分析医は空白の割には誰よりも一番まともであるにもかかわらず、猫を分析して猫的になったかと思えば、いつの間にか村の習慣にどっぷり浸かって通りすがりの小僧に平手打ちを食らわしたり、空を飛ぶ子供を鳥だと思ってうっとり眺めたりと、身分証明書に「埋めるべし」と書かれた自分の空白を埋めるどころか、精神分析もせずぶらぶらしているだけやけど、結局最後はやっぱりこうなるかと言うところに落ち着く。
しかしながら、三つ子の母親クレマンチーヌの狂いっぷりがこの本の中で最高である。腐った肉と腐ったチーズを食べ、子供たちを「白くも黒くも無い色も何もない無の壁」で子供たちを監禁し、子供たちに及ぶであろう、妄想としか言いようの無い災難を身を切るように心配する様はもう圧巻である。
冷静に読めば滅茶苦茶残酷でエグくてグロい話のはずやけど、全然そう感じさせないバランス感覚は絶妙である。その中にある美を描こうとする視点がそうさせているのではないかというような気がする。

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