石田徹也/『石田徹也遺作集』『石田徹也全作品集』/世界は醜いか?

先日ブリューゲルの版画や絵についての話で、彼が世界や自分自身の欲望を如何に楽天的に明るく捉えているかをあらわすような絵だ。というようなことを書いた。
彼と同様にこういった世界の良い面をちょっと笑えるタッチで描く人と言えば、福田平八郎やミヒャエル・ゾーヴァが該当すると思う。
こういった人の絵やイラストはとても楽しく気軽に見ることが出来るのだが、逆に、世界や自分を取り巻く世界が如何に醜くて、生きることが如何に辛くて悲しいかと言うことを、見ているこっちがしんどくなるくらいに、ひたすら描いているような人もまたいる。
amazon ASIN-4763006290amazon ASIN-4763010069石田徹也と言う人は徹底してそんな世界の醜さを描いた人だと思う。
ピンと来ない人とりあえず、「石田徹也」で画像検索すればその強烈さが分かってもらえるだろう。オフィシャルページから辿れば、低解像度ながらも年代順に並べられた主要な作品を見ることが出来る。
この人の凄い所は絵が好きな人だけではなく、あまり日常的に絵を見る習慣の無い人に対しても、絵画的な語彙とも言うべきものを超越して直接的に圧倒的に訴えかけるエネルギーを持っているところではないだろうか。
彼のようなシュールな風の題材のタッチで絵を書く人は沢山いるけど、彼ほど真面目に描いていた人はそれほど多くないように思える。
そして、彼のように世界や自分の醜さに焦点をあてて描いた人は幾らでも要るけど、彼ほど徹底して冷静に細かく見つめ続けた人はそれほど多くないのではないだろうか?
普通に生きていれば目を逸らしたり目を閉じたりしそうなものを、痛みや悲しみに耐えながらも、どんな細かいとこまでも見逃そうとせずにじっと冷静に見つめるような、彼の強烈な意思と気迫と意気込みと真面目さを彼の絵からひしひしと感じるような気がする。
彼の認識する世界が、彼にとってのフィルターによって処理されて表現されたものがこの絵だとしたら。彼にとっての世界は一体どんな地獄に見えていたのだろうと思う。
彼の絵は、見る人にとっても世界はある一面では紛れも無くこのようなものであると思わざるを得ないようなリアリティーを持って迫ってくる。
そして、彼が世界をそのようなものだと捉えながらも、それでもなお世界を肯定しようとしていた所にたまらない魅力を感じるのである。


しかし、彼は2005年に31歳の時に電車事故で死んでしまった。
オフィシャルな情報としては「電車事故」としかないが、ネット上で見る限り彼の死が自殺ではないかと言う推測が飛び交っているようである。
たしかに彼の絵を見ていると、彼が世界を醜く感じて生きるのが辛いと感じていたのは明らかなように思えるし、彼が自殺を選んだと言っても納得できてしまいそうな気もする。
しかし、それでも、彼が絵を描いていたのは自殺以外の手段を模索したからであるのも明らかであるように思う。
最近、『石田徹也遺作集』に引き続き『石田徹也全作品集』を読んだ。どちらも見ているだけで世界の暗黒面に引きずり込まれそうな強烈な画集であるが、『石田徹也全作品集』を読んで、彼の全ての作品が例外なく同じトーンを放っているのに圧倒された。
彼が如何に全身全霊でその存在をかけて世界と絵とに向かい合っていたのかがとても良くわかるような気がする。
彼は

「聖者のような芸術家に強くひかれる。〈一筆一筆置くたびに、世界が救われていく〉と本気で信じたり、〈羊の顔の中に全人類の痛みを聞く〉ことのできる人達のことだ」

と語っていたと言う。
彼は本気で世界を救うために絵を描いていたという所がなんとも胸を打たれるし、彼の絵のように認識されるような世界はやはりどうしても救われる必要があると思う。
さらに彼は

僕が強く感じることのできるのは、人の痛み、苦しみ、悲しみ、不安感、孤独感などなどで、そういったものを自分の中で消化し、独自の方法で見せていきたい」

とも言っている。
世界が彼と同じような風景に見える人にとって、彼の絵は自分が孤独じゃないことをひしひしと感じさせてくれるものであろうし、それは救いとは言わないまでも、何らかの力づけになるような気がする。
結局、彼は救われる事無く、そして世界を救うことなく死んでしまった。
というと語弊がありそうであるが、恐らくそれは間違いでは無いだろう。
もし、彼が生きつづけて、本当に徐々にでも救われて行くことが出来れば、彼の描く世界も徐々に救われて、彼の絵もそれに応じて徐々に変わっていっただろう。
これほどまでの強烈なイメージで世界を認識していた彼が、救われた世界をどのように描いたのかを本当に見たかった。

2件のコメント

  • 強烈でしょ(w
    石田徹也の内面に相通じるモノを感じる、こっち側に片足を突っ込んでる人に対して、私も相通じるモノを感じますですよ。
    こんな人だからこそ逆に生きて絵を描き続けてほしかったなぁと

  • 強烈ですね。
    でも、表現をせざるを得なかったんでしょうね。
    こっち側に片足突っ込んでる人間としては、何となく石田徹也の内面に相通じるモノを感じます。
    夭折したって言うのも、何となく分かります。

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