大野更紗『困ってるひと』/教養小説ならぬ教養闘病記

大野更紗『困ってるひと』を読んだ。

眠たくなるまでちょっと読んでみよかーと夜中の2時に読み始めたのだが、読み始めるごとに目が冴えて結局朝まで読んでしまい、次の日は一時間睡眠で出勤する羽目になった…

この本を一言で言うと原因不明治療法不明で対症療法すら手探りの難病にかかったうら若き乙女の闘病記という事になろだろうけど、決してそれだけに収まりきらないところがこの本がこれだけ売れ、この著者がこれだけ売れっ子になったことの証明だろう。

主人公が様々な困難を体験して精神的に成長してゆく様を描いた小説を「教養小説」というが、この闘病記は彼女の病気を切欠に今までの彼女自身を振り返りつつ精神的に成長してゆくという様が見事に描かれているという意味で「教養闘病記」ということになるだろうか。

とてつもなく重くて苦しい内容を扱っているにも拘らず本人の軽やかな語り口と随所に織り交ぜられるギャグの切れ味に感心させられ笑わされ、この本の紹介でもある「エンタメ闘病記」としてのみ扱ってしまいがちだが、しかし、やはり、この本の底に流れているテーマは神曲のごとき地獄めぐりであり、また彼女自身の「死と再生」でもある。彼女が何度も死の一歩手前まで追いやられ、彼女自身が死を激しく望みつつも、何度も何度も再生しそのたびに生長してゆく様はとても美しい。

しかし、それでもいくら死から再生したところで世界が生きやすくなるわけではなく依然として世界は脅威のままである。とういうところのリアルさもひしひしと伝わってくる。

あれだけ追い詰められつつ、<「前例」なき、道なき道を、ゆく>でありつつも、それでも「絶望はしない」と自らに言い聞かせるように宣言する姿はとても重々しく響く。そしてまた様々な恋愛遍歴をたどってきた(と思われる)彼女が不意に陥る純愛物語に図らずもキュンがムネムネしてしまった。

この本を読んでいると、自らの心の中に人間の喜怒哀楽の全てが一度に押し寄せてくる。

そして同時に、自分の抱えている悩みや問題のようなものの殆どが、如何に気に病むほどの事も無い取るに足らないものであるか、そして自分が如何に恵まれて幸せの渦中にある状態であるかに気付く事が出来るだろう。

彼女が「難病系女子」として世の中で生きてゆくのに一番の障害は何よりも強大で圧倒的でとらえどころの無い複雑怪奇に絡まったどうにもなら無い怪物である「社会」であるということを、

「モンスター」は「ハムスター」程度にしたい。

という素晴らしい言葉でもって表現しているのだが、現在も彼女は闘病を続けながら彼女自身のように「困っているひと」が少しでも生きやすい社会になるように、モンスターをハムスター化すべく現在も活動中である。

ということで、大野更紗ストーリー、第一部完!だが戦いは始まったばかりだ!大野更紗先生の今後の活躍にご期待下さい!

というところだろうか…いや…もちろん直接的な意味ですよ…

彼女のブログによれば現在の彼女は「作家&大学院生」ということでまた勉強と研究を再開されたのですな。本当にこれからも活躍して欲しいなぁと思う。

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