アンリミテッドアイロンの死によって死人使いが得た教訓

土偶家のアイロンが壊れて電源が入らなくなったので分解してみた。
温度調節は今時の製品なら温度センサーと電流や電圧が変わる回路でも使ってるのだろうけど、なんせコレは10年以上前の製品らしく、熱によって曲がり度合が違う二枚の板を張り合わせた金属の反り具合によって電源がON/OFFする機械式のサーモスタットで、ダイアルを回す量に応じてサーモスタットとの接点の距離が替わるといういたってわかりやすい方式。
わかりやすいのはいいのだが、いかんせん古いので、金属という金属が腐食しており、故障の原因は金属の腐食で張り合わせ式の板バネが曲がり、どのダイアル位置でも接点が接しない状態になっていたというもの。とりあえずこれをペンチで戻そうとしてみたところ、予想通り綺麗に折れた…
とりあえず電源だけは入るようにその板バネをその辺にある金属片を曲げて無理やり接点に触れるようにしたものに交換して電源を入れてみる。


とりあえず電源は入ったものの、サーモスタットが無い状態なのでどんどん温度が上がる。電源を切るにはコードを抜くしかない。
アイロンが炎上するか部品が焼けきれるまで温度は上りる続けるだろう…
お茶を飲みながらどんどんヒートアップしてゆくアイロンを眺める。
やがてプラスチックの溶ける嫌な臭いが…あわててプラスチックの取っ手を掴むと異様に熱い。しかも変に柔らかい。ヤバいのでとにかくコードを引き抜く。
んーこれは危険すぎる…こんなん使えん…つーかもう寿命や。まぁ、この際だから新しいのを買おう。
という事で我が家に十何年ぶり新しいアイロンが来る事になった。
しかし、予想される障害、つまり部品の脱落か欠損か変形によって電源が切れなくなるのではなく、電源が入らなくなるような設計ってのに素直に感心した。
なんにせよシステム設計思想ってのは深いなぁと、最後の最後で自らの体を焼き尽くすほどに燃え上がって天寿を全うしたアイロン君が身を持って教えてくれたような気がした。
生涯最高の高温に達したアイロン君がコードを抜かれた瞬間にその生涯を終えて徐々に冷たくなってゆく様は、まるで春の嵐に桜が散るようであり、線香花火が最後の瞬間にひときわ激しく燃え盛るかような、見事な死に様であった。
しかし、見方を変えれば、サーモスタットが壊れた時点でひっそり死んでいたアイロン君を無理やりよみがえらせて暴走させた私は典型的な死人使いと言う事も出来よう。
アイロン君は天寿を全うしたのではなく、ゾンビ化して暴走した果てに崩壊したのであるともまた言える。
見方によって事実などいくらでも変わり得るのを何度も経験しているし、実際にわかっているはずなのにいつまでも慣れる事が出来ない。というのがアイロン君の死によって得た今日の教訓であった。

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