“海中の通り魔、「抜け道ナイト」の称号を賜る” の巻
いつものメンバーでいつもの海に出かける。もう年中行事の一環である。
この日は中々に透明度が高く、泳いでいて気持ちよかった。
何度もキジハタを見かけたけど、横向くまで我慢できずに正面から撃ってしまい、弾かれたり避けられたりして逃げられるパターンばかり。
30センチクラスのキジハタをまともに狩れないのではお話にならん。
最初の二回くらいの出撃でカワハギ、ボラ、メバルを獲るも、結果として無駄殺しっぽくなりちょっと後ろめたさを感じる。
他の命を弄ぶ人間の業とはこのようなものであるし、それは自分自身で背負うしかない。砂で作った前方後円墳とピラミッドで丁重に葬ったので良しとしておこう。
そして、次の漁獲は家に持って帰って食べる為にと言う事で再び出撃する。
水面から海底5メートルまで一気に落ち込む岩場がメバルマンションになっており見ていて中々爽快である。中層の大岩を背にした30センチはあろうかという巨大メバルを発見してフルパワーでヤスを打ち込むも、見事に避けられて岩を誤射。時々存在すると言われる、ゼロ距離からの銛の一撃を避けるという赤い体色のニュータイプメバルであろう。
二本ヤスの一本の先が曲がり「あちゃ~」な所に数匹のクロダイの群れが視界に入る。とりあえず群れに近づいて一番後ろを泳いでいた大きい目の奴に斜め後ろから打ち込むも、曲がったヤス先では刺さり切らず、押し込んだり抑えたりする間もなくバタバタバタくらいで振り切られて逃げられる。
水中で「くそ~!」と一人悔しがるところに巨大ボラ御一行様の大編隊の登場。
悔しさのあまり群れの中で一番でかい70オーバーの巨大ボラに至近距離から鰓蓋の上を狙ってゴム引きMAXでフルパワーの一撃。もうほとんど通り魔である。
ヤス先の曲がりをものともせずヤス先は根元まで突き刺さり、そのままの勢いで岩に押し付けるものの、巨大ボラはヘッドショット気味にピクリとも動かない。
左手の指を鰓と口に入れて握り、ボラからヤスを引き抜いて、代わりに止めと血抜きをくれてやろうと太ももからナイフを抜いた時点で猛烈に暴れだした。多分ヤスが刺さった時のショックで脳震盪のように一時的に気を失っていたのだろう。
逃げようとガンガン暴れるボラの大動脈と脊椎を切断するために鰓蓋にナイフを入れかけたところで、どうせ無駄殺しになるやろうなと思う。一瞬の躊躇で手が緩み、ボラは手を振り払って一気に泳ぎ去って視界から消えた。
内臓と脊椎を傷つけていないので致命傷ではないけど大怪我ではある。外科手術という概念が存在しない自然界ではいずれは死ぬやろうな。でもまぁ野生の生き物にとって死の問題は、遅いか早いかの話でしかなくて当然か。とも思う。
帰りに渋滞に巻き込まれ、ナビを駆使して抜け道を走り出す。運転手と後部座席のギャラリーの不安気な「え~ここ行くの?」「まじっすか?」「おいおいだいじょうぶか~?」な声に「ダイジョブダイジョブ!!泥舟に乗ったつもりで任せておけ!」「黙って言う通りに走りやがれコノヤロウ!」と悪態をつき、ひそかな不安を内に秘めながらも抜け道の指示を飛ばす。
山あり谷ありUターンあり、山道あり生活道路あり畦道あり、砂利道あり獣道あり崖崩れありのハードな道を駆使して渋滞ポイントをパスし、目的地点に出たときの喜びは、アルプスを越えたナポレオンやカルタゴのハンニバルもかくやというものだった。そして不肖土偶はこの功績を称えられ「抜け道ナイト」の称号を賜ったのであった。ありがたやありがたや。