自転車で転び、額を割って思った事

朝出勤しようと自転車に乗っていた筈が、気付くと救急車の中に座っていた。額にガーゼが張られてシャツと鞄に点々と血がついていた。どうやら怪我をしているようだ。
救急隊員の方に「覚えているか?」と聞かれて首を振る。何も覚えていない。
話によると自転車に乗っていた私は溝にはまって一人で転び、額を割って救急車を呼ばれた。という事らしい。
結局病院に救急車で運ばれ、関係者に事の次第を連絡し、割れた額を縫い、レントゲンとCTスキャンを撮り、特に額の傷以外は問題はなさそうだと言う事でとりあえず帰ってきた。
自転車乗りとしては余りにも無様である。いや自転車乗り以前に人間として無様なのかもしれない。


事故した事自体はまぁおいておいて、何よりも一番不思議なのは、事故を起こして救急車に乗ったまでの記憶が全く無い事である。
固定ギアが怖いので常にゆっくり走っていたので、そんなにスピードは出ていなかったはずであるし、車道にある排水溝の溝も何時も注意して避けていたからそこにはまったとも思いにくい。
事故前後の事を何も覚えていない。いくら思い出そうとしてもなにも思い出せない。事故の真相は永遠の闇の中である。
今まで何度も自転車で転んだけど、こんな酷い事になったのは初めてである。おそらく、色々な事が同時に重なった結果起こった事なのであろう。
頭を打って記憶が飛ぶと言うのはよくある話でその事自体は特に心配ないとお医者さんに言われたのでやや安心したけど、救急車の中に座っている自分に気付いた時は、すでにちゃんと自転車に鍵をかけ、スピードメータを外して鍵と一緒に鞄に入れていた。鍵のかけ方とメーターを回収した行動から見る限り、これは私がやったのだろう。自分の記憶の欠落を深く意識する。
ある種の泥酔者は自分の酔った時の行動を全く覚えていないと言うけど、酒を余り飲まない私にとってはそのような経験は初めてである。自分の記憶の喪失が転んだ顛末以外の他の事に及んでいないかと激しく恐怖する。仕事上のもろもろのアカウントやサーバー名や人物、はたまた本や音楽や人の名前を片っ端から思い出してみる。特に忘れている事は無さそうやけど、記憶に無い事を思い出すのは不可能なのでまぁ程々であきらめるしかない。
見知らぬ誰かが救急車を呼んでくれて救急車やら病院やらの人の善意によって私は死なずに済んだわけである。生きてて良かった。私に同情と慈悲を寄せてくれた全ての人と、私を殺さなかった何者かに深く感謝する。
そして、自分の記憶の欠落を思うにつけ、頭の中に記憶として蓄えられるような知識とか知覚とかって言うのは実は簡単に頭から欠落するわけで、余りにも脆くて空しいものなのだと深く感じた。それでもそんな人間の蓄積された記憶を否定する事は出来ないし、人間個人は記憶の蓄積によって個人として成り立っているのも間違いないだろう。
結局の所、この脆さとか空しさってのは人間個人の存在の脆さと空しさでもあるのだと。
頭の中に蓄積される知識と頭によってのみ知覚される真理や定理ってのを私は殆ど唯一のもののように求めていたような気がするけど、それのみを頼りにするのはやっぱり空しいと思うようになった。
パスカルやアウグスティヌスが信仰は習慣で作られて強化されると言うような事を言っていたけど、理性に制御されていないながらも、無意識で自転車に鍵をかけ、スピードメーターを外して鞄に入れる原動力となった「習慣」の力の偉大さを思い知った。
いくら頭の中で崇高な思想を掲げようとも、いくら口で高邁な言葉を述べようとも、いくら深遠な真理を理解したと意識しようとも、実際にその通りに行動出来なければそれらは空しい。そして無意識の行動とは殆ど習慣で形作られるものである。
頭の中で考えられて口だけで話される事は私とは余り関係ない。私の行動こそが私と関係あるものである。
私が思い考え話す事が私を表わすのではなく、私が行う事が私を表わすのであると。
などと当たり前の事に気付き、ちょっとだけ自分を謙遜にしたような気がする、額にチャッキーか丹下左膳のような傷跡を残す事になるであろう単独事故の顛末であった。
もちろんそれ自体が頭の中で考えられた事なのであるから、それが私の身になって私の考えであると言えるようになるのは日々の生活上の実践にしかよらないのだろうけど。
怪我をする事で心配をかけてしまった人に対して激しく申し訳なく思う。このような心配をさせないためにも事故はすべきではないと思う。
自転車に乗ってこんな怪我をする事で、他の自転車乗りに有形無形の迷惑をかけたとしたらこれも大変申し訳ないと思うと同時に、こんな怪我を負いながらもやっぱり自転車は良いものであると思う。
そして、全ての自転車乗りに気をつけて走ろう。また固定ギアは危ないよ。と呼びかけたい。

6件のコメント

  • おっしゃる通り骨折らんで良かったです。ありがとう!画伯さんもお気をつけあそばせ。

  • 骨折とかにならずにホントに不幸中の幸いでしたねぇ。ご無事で何よりです。
    お大事に!

  • はい、文章書けるくらいに無事でてヨカタです。
    真面目にありがとう&お気をつけくださいです。

  • ちゃんと文章書いててヨカタです。
    無事で本当何よりでした。何分頭は非常に大事ですので、マジメにお大事にです。

  • はいーありがとうです。本当に無事で何よりでした(^^)vもうここまで転んだら前向きになるしかないですなぁ…

  • 記事読んで、結構ど派手な事故やったみたいでビックリしてます(@@)。でも、無事で何よりでした~。額の傷は痛々しいけど不幸中の幸いってやつで前向きに~(^^ゞ

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