ベートーヴェン:最後期のピアノソナタ マリヤ・グリンベルク / 最後に地上に還る五つの変奏曲

amazon ASIN-B00005EZJ0ちょうど100年前の1908年に生まれたロシアの女性ピアニストであるマリア・グリンベルクのベートーヴェンの最後期のピアノソナタを聴いた。
彼女はソ連のピアニストで初めてベートーヴェンのピアノソナタ全集を録音した人物であるらしく、このCDの曲はその一部だと思われる。
ベートーヴェンの最後の三つのピアノソナタ、特に32番のハ短調は私が最も好きな曲のひとつで、今までいろいろな人の演奏を、アシュケナージ、グルダ、バックハウス、アラウ、内田光子、ケンプ、グールド、シュナーベル、ポリーニ、ギレリス、(他にもいたかな?)などを聴いてきた。そしてその中での私の基準演奏は、始めて聴いてベートーヴェンに開眼したアシュケナージの演奏である。
このグリンベルグのピアノはとにかくパワフルで、私の中の基準であるアシュケナージはもとより、今まで効いた誰よりもエネルギーに溢れる演奏であったような印象を受けた。
彼女のこの演奏からすれば、アシュケーナージの演奏はとても女性的で線の細いように思えるくらいである。


主題と五つの変奏曲からなる32番の第二楽章やけど、今まで誰の演奏を聴くにしても、第四変奏は現実離れしてるほどに端正すぎてそれほど好きでなく、一番好きな第三変奏に至る過程にばかりに注目して聞いていた。
でもこのグリンベルクの第四、第五変奏は今までに無いくらい人間臭い演奏でとてもびっくりしたと同時に、この曲の捉え方ががらっと変わった。
この曲を評する時に誰しもが「広大な世界に精神を開放して高揚するかのような第二楽章」というニュアンスの事を言うけど、その遠い世界に飛び立った最たる部分が第四変奏であろう。
しかしグリンベルクの演奏は、第四変奏で高く飛びながらも人間味を残し、他の演奏家では別の世界に到達したかのように聴こえる第五変奏を、厚みを増してこの世にちゃんと戻ってきたかのよう弾いているように思える。
今までこの曲は、精神が苦悩とか欲望を超越して完全に別の世界に行ってしまうからこそ好きなんやったけど、最近はそう言う感覚がちょっと無くなって来た事もあり、好きな曲と言いつつもあまり聴いてなかった。
でも、久しぶりにこの演奏家の演奏するこの曲を聴いて、とても感動したし、この曲の捉え方ががらっと変わった。
前からピアノを弾けるようになりたいなぁとはぼんやり思っていたけど、このグリンベルクの演奏を聴いてますますその思いは強くなった。
とはいっても家にはピアノどころかキーボードすらないので何も出来ないところが悲しい。
とりあえずなんか適当な電子ピアノ見繕って、バイエルから始めようかなと、かなり本気で思うようになった。

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