『カッコウはコンピューターに卵を産む』クリフォード・ストール

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発端は75セントだった。研究者のコンピュータ・システムの使用料金合計が75セントだけ合致しない。天文学研究のかたわら、新米のシステム管理者となった著者の初仕事が、その原因の究明だった。どうせプログラムのミスさ、と軽い気持ちで調査するうちに、正体不明のコンピュータ・ユーザーが浮かび上がってきた。―ハッカーだ。誰かがコンピュータに侵入している。しかもこのハッカーは、研究所のコンピュータを足場に、国防総省のネットワークをくぐって各地の軍事施設や基地のコンピュータに侵入し、陸軍のデータベースを読みあさって、CIAの情報にまで手をのばしている。この電子スパイの目的は何か。どこからどうやって侵入しているのか。そしてその正体は?世界中に報道された国際ハッカー事件。そのハッカー相手に孤軍奮闘した若き天文学者がみずから書き下ろした、電子スパイ追跡ドキュメント。
とある。1989年にアメリカで発刊され大ベストセラーになり、日本では1991年に初版が出ている上下二巻組みのなかなか長いノンフィクション。
タイトルにもなっている「カッコウの託卵」はバックグラウンドジョブで実行されることを前提にシステムに仕込まれるトロイの木馬の例え。
古典的「ハッカー話」の代表作であり、俺のような人間はあらすじだけでわくわくするけど、実に面白かった。これはコンピューターに少しでも興味を持つ万人にお勧め。


amazon ASIN-4794204302もうすでに15年以上の前のシステムの話で、書かれている内容は相当に古い。デフォルトアカウントのまま放置するシステム管理者やメールでユーザー名とパスワードを送るユーザーなどの人的な問題点は時代に関係なく現代でも通用する話というのはもちろんいうまでもない。でもこれは「コンピューターリテラシー」のレベルの話。
当然今ではfixされているやろうけど昔のemacsやviにそんなバグがあったとは始めて知った。古い話なので技術的には特に何もないかと思ったけどそうではない。当時にあったこの本に書かれているのと同じようなセキュリティーホールは依然として残ってる。たとえばsendmailのバグ、fingerなどのinetdから呼び出されるプロセスのバグ。最近全世界を覆い尽くしたNIMDAやCODE-REDの蔓延は15年以上の前の話と何の差異もない。対象OSとポートが違うだけ。ようは「バッファオーバーフロー」の問題。
バッファオーバーフローだけに関していえばワードやエクセルが固まるのとなんら変わりなく特にそれほど深刻な問題ではないけど、そのプログラムがはルート権限で動いていることに問題がある。一般ユーザーの暴走でこうむる被害はユーザー領域だけですむが、スーパーユーザー権限のプロセスが暴走すればそのシステムに及ばず、同じネットワークの傘下にあるすべてのノードが破壊される可能性すらある。
sendmailがrootで動かざること得ないことは散々議論されて対策もある程度は立てられているけど、コンピューターである以上、絶対にroot権限で動かざるを得ないプログラムは必要であり、コンピューターであるということは潜在的にセキュリティーホールの原因を残していることになる。
21世紀になっても依然として「バッファオーバーフロー」の問題が根本的な解決を見ないのは、コンピューターという存在自体のそもそもからその問題を内包しているわけで、それは今のようなノイマン型コンピューターである限り解決されることはないのだろう。セキュリティーホールとパッチ、侵入者と防御者のいいたちごっこは終わることなく繰り返されることになる。当たり前のことやけど、完璧なシステムなんか絶対にありえないということだ。
われわれのような立場の人間には頭の痛い話やけど、この作者も言っているように、「コンピューターネットワークはワイヤーと回路の入り組んだ高度に複雑な装置ではなく、人間の相互信頼と協調の上に成り立つひ弱な共同体」でしかない。
インターネット万能、コンピューター万能の世の中ではあるけど、そんなものは一瞬にして崩れ去る。それでもそこにはいろいろな可能性があるし、現に俺はそのことで職を得ている。
悪いやつひどいやつ無作法なやつは多いけど、それでも本気で何事かを考え、善意で行動する人も沢山いる。
この作者も言うように、その共同体という意味でのネットワークやシステムの善性を認め、侵入者やクラッカーによってその共同体の信頼性が失われれてだれもそれを使用するものはいなくなるということが大きな損失であるととらえる者であるなら、われわれのような立場にある人間は技術的な方面のみでそこに介入するのではなく、その善なる部分を守ることのできる力を持つものという自覚をもってそこに関わる必要があるのだろう。
ここは天国じゃないんだ、かといって地獄でもない。良い奴ばかりじゃないけど、悪い奴ばかりでもない。
といっているだけでは、少なくともわれわれの立場にある人間は駄目なのだ。
そういう意味では啓蒙的な小説といえるかもしれない。
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