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2008年5月13日

マノエル・ド・オリヴェイラ 「ノン、あるいは支配の虚しい栄光」 (1990/ポルトガル=スペイン=仏)

昨日に引き続きオリヴェイラ監督の映画を観た。昨日見た「神曲」の前の年の作品である。
「ノン、あるいは支配の空しい栄光」ってタイトルは妙に気取ったようで微妙やけど、パッケージに「男性に特有の問題である敗北というテーマについて語っている映画である」てな感じの監督の紹介が書いてあって、うむーと興味を持って借りてきた。
うん、確かに勝ってさえしまえば特に気を使わずに扱える勝利に比べて、敗北をどう取り扱うかは中々難しい問題やね。
ストーリーと言うか、映画の流れは、サラザール独裁政権時代のポルトガルのアフリカの植民地で、兵士たちを輸送するトラックの荷台の上で、大学で歴史学を研究していた中尉がポルトガルの歴史上で重要な3つの敗北の歴史を語って聴かせると言うものである。


具体的には、ローマ帝国と互角以上に渡り合った部族であるルシタニア族の族長ヴィリアトゥスが暗殺され、彼による統一王国の成立が果たされなかった歴史、政略結婚によってスペイン第一王女を妃とした王子アフォンソの落馬による死によって一大帝国を築く野望が潰えた歴史、暴走したセバスティアン1世の無茶な指揮によってポルトガル王モロッコ王アラブ王の三人の王を失う民族規模の損失となった戦争であり、その後ポルトガル王国がスペインへと併合される切っ掛けとなった史上最大の敗北であるアルカセル・キビルの戦いの三つである。
どの三つの敗北もポルトガルにとっては、王国が出来るか出来ないか、王国が一大帝国となるかならないか、王国が存続できるか出来ないかの瀬戸際での敗北と言う事でかなり手痛い敗北の歴史と言う事になる。
中盤に唯一の勝利や征服と言える、キューピットやらニンフやら女神に山上に導かれたヴァスコ・ダ・ガマの詩の物語があるのやけど、妙にちゃっちい再現フィルムのような作りなのが笑けた。
まぁ、この映画を観て初めてポルトガルの歴史なるものをちょっとばかり知ったわけやけど、まぁ確かに「支配の空しい栄光」と言いたいのはよくわかった。
そしてこの三つの敗北の歴史を語り終わった後、兵士たちは今まで語ってきた歴史と同じように、ポルトガル軍として敵である独立運動のゲリラと交戦する事になるのである。恐らくこれが歴史につながる個人としての第4の敗北の歴史と言う含みを持たせているのやろう。
ヴァスコ・ダ・ガマを知っている人は多いけど、族長ヴィリアトゥスや熱望王セバスティアンを知っている人は少ないに違いない。
往々にして、勝者の歴史は勝者が覚えていなくとも周りが覚えているものであるし、勝者や周りは敗者の事を殆ど覚えていないにも関わらず、敗者は自身の敗北の歴史をよく覚えているものである。
「敗北の歴史」を持つものは敗北した者だけであるゆえんがそこにあるのだろう。
しかしまた「敗北の歴史」を持ち続けることは同時に滅び去ってはいない証拠でもある。敗者が滅びる時は同時に「敗北の歴史」が消え去る時でもあるからだ。
そして敗者はポルトガルの民間伝承のように、救世主として現れるであろう「熱望王セバスティアン」を待つが如くに、自らの敗北に対する復讐を望む傾向にあるのだろう。
そしてこの映画では、復活した敗北への復讐の民族的象徴である「熱望王セバスティアン」はかくのごとき運命をたどるのである。
なんとなくフランス映画っぽいふふーんなタイトルで社会派ちっくな内容であるにもかかわらず、とてもわかりやすいメッセージ性があった。
つまりはタイトルそのままというより殆どネタバレタイトルやけど、「支配の栄光」は「ノン」としかならない「支配の空しい栄光」なのである。と言う主張。
そして、支配や占領は何も残さない、残るのは支配した領土に与えた何かだけだ。ポルトガルが残したのは、ローマやギリシアがヨーロッパ世界に残したもののようなもの、ヴァスコ・ダ・ガマを筆頭にした大航海の先人が残したものだけである。というメッセージであろうか。
まぁこの映画とは直接関係無い話けど、何らかの争いや戦争で、勝利や敗北が問題となるのは、何を巡っての争いや戦争であるかと言う事に大きく影響される。
本当にどうでも良い事についての争いや、本当に価値の無い事についての争いについての勝ち負けがどれほど意味を持つだろう。勝ち負け自体を問題にするよりも、何を巡っての争いであるか。こそが問題なのだろう。
いうまでもなく、争う価値のない物についての勝敗に価値の差は無いのだ。
そして本当に価値を見出したものについての争いに勝った場合の対処よりも、負けた場合のへの対処こそが大事なのは言うまでもなさそうだ。

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