高野文子『絶対安全剃刀』 / 「ふとん」はこの世で最も美しいものの一つ、だと思う
最近、精神病だの自殺直前日記だのひきこもりだのとやたらとヘビーな内容のエントリが続いたので、ちょっとライトに、でも限りなく美しい漫画の紹介である。
先日、高野文子の『棒がいっぽん』 を読んで衝撃を受け、彼女の書いた単行本を全部買ったと書いた。
とは言っても高野文子という人はキャリアのわりに寡作で全部で6冊しかないので集めやすくはあるのだが、その中のこの『絶対安全剃刀』 は1982年に発行された彼女の初の単行本である。
この本は彼女の1977年から1981年までに発表された一作ごとにタッチが違う17作品で構成されている。どの作品もなんとも言えない雰囲気を持っているのだが、私は「ふとん」という作品が飛びぬけて尋常じゃなく大好きである。
登場人物である「少女」と「観音」の会話、「少女」が「観音」に酌をするシーン、どのコマどの台詞をとってもすべて美しい。とてつもなく変なところにヒットして刺激するような美しさである。この『絶対安全剃刀』の「ふとん」はこの世の中で最も美しいもののひとつであると言っても良いと思う位である。
作家はデビュー作を超えられないとよく言う。この本は作品集なので厳密にはデビュー作ではないのだが、確かにこの「ふとん」だけでなくほかの作品にも高野文子という人のもっとも繊細な美意識と表現が純粋な形で現れている作品集であると思う。
彼女はストーリー漫画ではなく短編ばかり書く人である。私は基本的に小説も漫画も長編が好きなのだが、この人の短編は、本当に短編であることの素晴らしさを教えてくれるような気がする。
ストーリ漫画っていうのはある程度読んでしまえば終わりってところがあるけど、この高野文子の本は手元に置いていつでも読み返せるようにしておきたいと思わせる、「買わせる本」であると思う。
しかしこの人はCDジャケットや書籍のイラストレーションもしているようだが、これだけの寡作で専業作家として生活していけているのだろうか?
逆にそこにこだわらないところが、彼女の作品のクオリティーの高さなのかもしれない。