レベッカ・ブラウン 『私たちがやったこと』

レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』を読了。
最近読んだ二作『体の贈り物』『家庭の医学』のいわるゆる「介護文学」なるものとは全く色合いも雰囲気も違う話であり、基本的には「私」「あなた」の一人称と二人称で語られる、カップルを巡る七編の短編で構成されている。

安全のために、私たちはあなたの目をつぶして私の耳の中を焼くことに合意した

と中々ブッ飛んだ出だしで始まる表題作のように、狂気じみた、というか狂気でしかない恋愛が描かれてゆく様は中々凄みがあった。
個人的には、「ナポレオンを殺したい」と言うよくわからん脅迫概念に追いまくられた女性が、夢で何度もナポレオンを殺し、現実でもナポレオンのことばかり考えてばかりいて、恋人との関係に破綻をきたしてしまう物語の「ナポレオンの死」が一番良かった。
ナポレオンを駅のホームから突き落とすとか、羽根ペンでうなじを何度も突き刺すとかいう変にリアルな夢や、現実で映画を見てもアートの作品を見てもナポレオンを思い出して、恋人はそんな彼女にナポレオンは何かの投影だとか不安や抑圧の表れだとか理由をつけたがり決して理解できない様は可笑しかった。
突拍子も無い話やのに、読んでて妙に薄ら寒いリアリティーを感じた。


amazon ASIN-4838713622レベッカ・ブラウン特有の淡々とした感傷も美化も無い語り口調は、狂気を描くことでよりエグさを増しているように感じた。
この本を読んでいる限り、七編の短編に共通して、恋人同士の二人の世界とそれを取り巻く社会の世界のギャップをテーマとして扱っているように思えた。
この作者はレズビアン作家と言うことになっているらいので、確かにそういった「レズビアン」な立場からすれば、自分たちの恋愛と社会の関係には敏感にならざるを得ないだろう。
しかしながら、異性愛者同士の恋愛と社会の関係でも片方から片方を見れば狂気にしか見えん場合も多々あるわけであり、某ーチェさんからすれば、

愛の中には、常に幾分かの狂気がある。しかし狂気の中には常に又、幾分かの理性がある

ということだそうで、まぁそういうことだ。(言いっ放し)

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