レーモン・ルーセル 『ロクス・ソルス』

昨日書いたどっちが著者でどっちがタイトルかわからん、レーモン・ルーセル『ロクス・ソルス』を読了。
某サイトで面白いと書いてあったので読もうと思ったけど、それまで名前も作品も聴いた事も無かった。
著者のレーモン・ルーセルは1877年にパリの富豪の息子として生まれて音楽を学んだものの、財産を後ろ盾に細々と詩と小説を書いて生計を立てていたようだ。
彼の作品は世間からは殆ど無視されていたけど、一部でコアな人気があったようで、中でもアンドレ・ブルトンやとかサルバドール・ダリやとかが絶賛したようにシュルレアリスム的な色彩が強い。
しかしながら彼自身は芸術家とかインテリとかの筋の人に認めてもらう気は全く無かったようで、大衆に受け入れられるのを望んでいたらしい。
1933年に殆ど自殺のような死に方をしてもなお大衆に認められる事は無く、コアなファンだけを異様に弾きつけているらしい。
この本のタイトル『ロクス・ソルス』は「人里離れた場所」という意味のラテン語で、この本はその人里離れた場所にある研究所で、そこに住む科学者カントレルが客たちに見せる敷地内にある様々な発明品の描写とその説明の話である。
耽美的で悪趣味で有機機械的で錬金術的な怪しげな発明品がかもし出す雰囲気は何とも不思議な世界である。
誰かが言っていたように、小説と言う形式の一つの極であるというのはわかるような気がする。
これはたまらん人にはたまらんのやろうなぁ。


amazon ASIN-4582765114この本が出た当初は「文体が無い」と言う批判が出たらしいけど、文体どころかストーリーすらないのは明らかやろう。
この本の一番重要なテーマは発明品の数々の描写とそれにまつわる物語と動作原理の説明であり、ストーリーは奇怪な発明品の数々を語る為の妥当性を増す役目しかなしていない。
人生やら愛やらといったものに対する考察、というか、何に対する考察も一切無く、ただ図鑑のような説明が延々と続く様と、その発明品にまつわる物語や動作原理は読み手の想像力というよりは狂気に近い領域を刺激する。
なんというか、人間の感情とか生命力なんてものは一つのシステムに過ぎんと言う割り切り方がなんとも思い切ってて気持ち良い。
しかしながら、彼の死後に発表された本で彼はこの本の著作方法を明らかにしており、それによると文を分解して単語に区切り、別の意味になった文を記述するという同じ単語で複数の意味を表す単語が多いフランス語特有の性質を利用した方法を取っているらしく、そういうのは確かにシュルレアリスムの自動筆記に近いものがあり、それ故に間の想像力を突き抜けた領域を描きえたのだろう。
著者のレーモン・ルーセルは稀代の変人、キティ以外の何者でもないと言われるだけあって、この『ロクス・ソルス』も奇書である事は間違いない。
それ系の人が読めばまたとない本になるだろうし、そうでない人にとってもこの稀代の奇書を読んでおいても損は無いだろう。
読んでからwebで知ったのやけど、この本とこの作家はどうやらサブカル的な文脈で言及される事が結構多いようで、押井がどうのとか言うそっち系の人が良く口にするようだ。
フーコーとレリスの二人のミシェルにべた褒めされた時は「ふん!」と思っていた筈のレーモン・ルーセルも、今になってフランスから遠く離れた僻地の日本で大衆に受け入れられつつあり、草葉の陰でさぞかし喜んでるだろう。

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