三島 由紀夫 『春の雪』 (『豊饒の海』 第一巻)

amazon ASIN-410105021X傭兵仲間の某氏のお勧めの一品である、三島由紀夫『豊穣の海』シリーズの第一部『春の雪』を読了。
この本は「浜松中納言物語」に題材をとる壮大な輪廻転生と夢がテーマの『豊穣の海』の第一巻であり、大正時代の華族と宮家を巡る、世にも美しい公爵の若様とこれまた美しい伯爵の令嬢の禁断の悲恋の物語で、春の雪のようにはかなく美しいものがテーマであるというところであろうか。
恥ずかしながら今まで三島由紀夫は『潮騒』と『仮面の告白』しか読んだ事が無かったのだが、どちらもある意味では極端に三島由紀夫っぽ過ぎるわけで、逆に三島由紀夫の小説なるものをつかみきれていなかったのだろう。
そういうわけもあり、三島由紀夫の最高傑作と評する人も多いこの『春の雪』を読んで素直に驚いた。
クラクラするような三島由紀夫の美や雅に対する感覚が体感的に伝わってくるし、何よりも日本語の表現が美しい。世界のミシマというけど、これを上手く翻訳できるのだろうか?
日本語表現の美しさは翻訳文学や現代文学ではありえない、ある種の日本語表現の到達地点であるように思う。


物語というかメインの恋愛に関するストーリー自体はまぁ言って見ればチープではあるけど、そのあり方は確かに美であるし『豊穣の海』の一巻であるとするととても意義があるだろう。
主人公の性格であり生き方でありあり方である美と醜の同居が醸し出す芸術的効果、これから本シリーズを貫いてゆく事になるであろうと推測される輪廻と唯識思想への言及、明らかに後の伏線となるであろう印象的な箇所など、全体像から個々のパーツから思想的バックボーンまで隅々まで緻密に計算されつくした、ある種の日本庭園的な構成美を感じた。
結構この本は高校生とか中学生がチャレンジする事の多い本のように思うのやけど、果たしてこの美が理解できているのだろうか。と少し不安に思うと同時にこの歳になって初めて読んで良かった。とも思った。
一冊の本であるとは言え、『豊穣の海』シリーズの1/4が終わっただけなので感想はこれくらいにしておく。

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