『小説の経験』大江健三郎

この本の内容自体は1992年に書かれた物やけど、出版は二年後のノーベル賞受賞の直後のようだ。15日で3刷超えているところを見るとその勢いでよく売れたようで、ちなみに俺は3刷を買っている。
この人の小説は日本がノーベル賞祭りでえらい騒ぎになっているのが落ち着きかけたころにかなりまとめて読んだ記憶があり、「ギー兄さん」のきっついキャラはまだ印象に残っている。同時代の作家ということでなにかと比べられる事の多い安部公房よりはかなり好きなタイプの作家。
最近はまったく読んでなかったけど、この本を古本屋で200円で発見し、本のコンセプトに惹かれて買ってきた。


amazon ASIN-4022641665そのコンセプトというのはこの本の前半、小説を読む事が好きで意味のある事だと思っている人間が、年をとってもう一度小説というものについて再入門してみようというもの。NHKで放映されたテレビ講座を本にしたものであるらしい。
後半は文芸誌に連載されていた、その月々に発売された小説に対する評論集。
後半の方は俺がほとんど職業的評論家の「批評」というもんを意図的に避けていることもあり、ほとんど斜め読み。「あーそんな本もあったなー」とすごく懐かしかったり「村上春樹褒められてるでー」と驚いたり、その程度の感想。
俺がちゃんと読んだのは前半「小説再入門」の方。
最近俺は自分自身が変わったと感じたせいか、単純に年のせいかわからんけど、とにかく「小説」というもののとららえ方が昔と比べて変わっていることに気づいたこともあり、「小説」というあり方自体に興味を持っていたところがある。そこで、その「小説再入門」というコンセプトにとても惹かれた。
で、なかなか楽しみにしながら読んでみた訳やけど、和洋時代を問わずさまざまな小説を具体例にあげて、大江健三郎自身の小説の読み方と着眼点が丁寧に述べてある。なるほどヤツはこういう具合に小説を読んでいた訳かと、とてもわかりやすい。でも、読めば読むほどいかに自分が本を読んでなくて、いかに薄っぺらにしか読んでなかったかということを思い知らされて少々凹んだ。今までの本読み経験が無駄やった気分。んまぁノーベル賞作家と比べるのもアレやけど…
それでも方法論として小説もアリ。というところを大江健三郎が力説してた所とか(職業的作家やし当たり前か…)、俺が思う小説が目指すべき所とか意味とかが大筋ではそれほど間違ってない。(大江健三郎と比べて)てところでちと気が楽になった。例えば「立花隆」的に突き詰めても絶対たどり着けないところに小説はたどり着けるはずや。ということかな。(余計にわかりにくいか…)
この本の中で大江健三郎が若いころに『罪と罰』を読んで「フーン」という感想しか抱かず、後に読んだ『カラマーゾフの兄弟』を気に入り、それからそれがずっと一番と思ってきたけど、久しぶりに読み直した『罪と罰』はすごかった。てな事を書いていた。
確かに俺もまったく同じような経緯でカラ兄マンセーになってる。ここはヤツが言うように『罪と罰』読んでみるか。十年ぶりくらいになるけど。
熱中度     ★★☆☆☆
考えさせられ度 ★★★☆☆
影響度     ★★★☆☆
総合      ★★☆☆☆

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