『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス

この本の著者ガブリエル・ガルシア=マルケスはコロンビアの作家で、1982年にノーベル文学賞を受賞している。政治的な活動は全くと言っていい程無いようで、この『百年の孤独』がブレイクするまではどちらかといえばジャーナリズム畑の住人だったようだ。
この『百年の孤独』は1967年に発表され、スペイン語圏で「まるでソーセージ並によく売れた」といわれる程世界中の大ベストセラーとなり、60年代から始まった「ラテンアメリカ文学ブーム」の代表作の一つである。らしい。
本の内容としてはコロンビアの架空の町マコンドを舞台にある一族の始まりから終わりまでを、「マジックリアリズム」と呼ばれる現実と非現実の入り交じったスタイルで丹念に綴って行くもの。
俺は「旧版」と呼ばれる、初版1972年の1982年の13刷を買っている。ちなみに「新版」は同じような名前の並ぶ一族の家系図が冒頭についているらしい。
ながら読みで挫折して気合い入れて読み始めたものの、本自体の面白さで一気読み。
同じような名前の人間が大量に登場して混乱するとよく言われてるようやけど、1度目はそんな「登場人物の名前と個性」などという些末な事は気にせずに勢いで読んでしまうのが正しいと思う。印象深く重要な人物の名前は勝手に覚えるし、個々の人物の個性など超越したクロニクルの持つ深みと時間を超越する感覚がこの小説のキモやと思う。


amazon ASIN-4105090089画像の装丁は新版の物、読んだのは旧版やけど画像はもとよりISBNすら無いのでこれを使います…
この著者が1982年にノーベル文学賞を受賞した理由として「現実的なものと幻想的なものを結び合わせて、一つの大陸の生と葛藤の実相を反映する、豊かな想像の世界」を創り出したこと。があげられるそうだが、ようはこの作家を語る上でよく言われる「マジック・リアリズム」なるスタイルが一定以上の評価を得ていると言うことであろう。
確かにこの本に出てくる現実だか非現実だかわからんようなエピソード、錬金術、空飛ぶ絨毯、頻繁に当然のように出てくる亡霊、チョコレートを飲んで浮遊する神父、文字通り昇天する絶世の美女、壁土と庭土を貪り食う女、自分の経帷子を縫うのに没頭する老婆、上げ出すときりがないけど、そういう訳のわからんことが日常として語られ、読んでてなんだか頭がクラクラしてくる。自分の立っている常識的で科学的な世界認識の基盤が揺らぎそう。という程のことはないけど、そう言う危うさはそこかしこに感じられる。また、登場人物の誰もがどこかで決定的に病んで歪んでいるというのもなかなか良い。「人間なんか誰でも多かれ少なかれそんなもの」とか言う以前に、その歪みっぷりと病みっぷりが素晴らしい。俺自身はオカルト的な趣味はあまりない方だと思うけど、そいいうぶっ飛んだ世界認識もありかもしれんし、実際に数百年前まではそうやってんなぁと今更ながらにちょっと驚いた。
逆にいれば、この本の中の登場人物が磁石や氷をみて驚いたように、我々が住む世界の現実的な常識なんかは見方を変えればオカルトと写るだろうし、すぐに崩れるものだろうという事は想像に難くない。現実に社会で常識といわれていたような事も近年崩壊しつつあると言うし…
社会派な文章になりそうなので話を戻すと、この本を一言で言うと、ある時期の大江健三郎だとか中上健次を煮詰めたような土着的で情念的な感じの(まぁ実際は彼らの方がマルケスの影響を受けていたらしいけど…)「マジックリアリズム」は別にして、好い意味で古典的な年代記調の小説と言う感じか。
それでもやっぱり18.19世紀文学にはなくヨーロッパが決して経験しなかったような苦悩だとか伝統てなものがこの本ににはあると思う。
「ラテンアメリカ文学」と聞いてフォークナーを思い浮かべるようなずれた感覚しか持っておらず、なぜか根拠もなく南国の人間は小説など書かない、と思ってた俺やけど、実際にこの本を構成するパーツ自体はサソリだとかトカゲだとか椰子だとかバナナだといったラテンアメリカ的なものにも関わらず、登場人物のやってることはロシア人の書く小説に出てくる人間と大して変わらん。暑かろうが、寒かろうが、人間のやりそうな事は大して変わらん。と言われてみれば当たり前のことがちょっと新鮮やった。
怒濤のクロニクルと圧倒的な情報量と大地を揺るがすかのようなリアリズムはまさに傑作と呼ばれるに相応しいと思う。実際に文章も読みやすいし、使われてる単語も平素やし、大ベストセラーになったのも頷ける。まだ読んでない人は読んでおいて損はない本やと思う。じゃぁ得になるのかといわれると困るけど…
最後にこの本の中で一番気に入った一節。
「また警備隊の若い隊長は小町娘のレメディオスにすげなくされて気が狂い、元旦の朝の窓の外で、恋に殉じた冷たいむくろとなって発見された。」
並の才能なら一冊の本にしかねんエピソードが、ただ一人の女性を形容する一文になってる事でこの本の「濃さ」と「スケール」が、また、こういった些細な事実を一文で完璧に的確に表現してしまうたぐいまれ無き彼の才能もおわかりいただけよう。
熱中度     ★★★★★
考えさせられ度 ★★★★☆
影響度     ★★★☆☆
総合      ★★★★☆

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