黄金クインテットの「間」を聴け

前に進み出すという事は、現時点や過去の自分を否定する側面を持っている。
否応なく前に進み出す予感は、一方で失われ、あるいは失おうとしている自分というものに対する憐憫をかきてる。
そういった予感が身近なものとなった時に、個人的な意味合いで失われつつある自分のルーツみたいなもんを振り返って確認したくなる事があるけど、何か最近そういう感じになっている。
新しく生まれた、前に進もうとする内燃機関を持つ部分と、古い消えつつある機関の二つのものが分裂した状態としてある。
「新しいの」が前に進もうと躍起になっているのを「古いの」が「まぁまぁ落ち着け、慌てんでも直ぐに無くなるから」となだめながらゆっくり後ろを振り返っている。
そう。慌てる事はない。今度は間違いなく前を向いている。ゆっくり歩けばいい。


そういうわけで突然思い立って今日から「昔聴いたスタンダードをもっかい聴き直してみよう期間」と言う事になった。
1枚目は我が敬愛するMiles Davisの「Round About Midnight」このおかげでMilesが好きになったというレコードである。
amazon ASIN-B00005B58W某氏が「タモリ?」とのたまったけど、なかなか有名なジャケットのCBS移籍の第一弾。
CBS移籍第一弾ってみんな言うけど、これはPrestigeとの契約ノルマ達成の為のかの有名なマラソンセッション以前にこっそりCBSに吹き込んだ音源であるからして、どっちかというとPrestige時代のものでCBS時代のものとは違うぞといつも思うのだが。
まぁ、細かい事はええとしても、録音はPrestige時代で発売はCSB時代と言ったって混乱するだけやしね。
今録音して数年後に売ってもちゃんと売れるというのは今ではちょっと想像しがたい。今そんな事出来る奴おるんやろうか?
というか、数年寝かせておいて小出しにしながら発売してもちゃんと売れたMilesが凄いんやね。
話が飛びすぎたのでこのアルバムの話に戻すと、
個人的にはこの時代の前後のMilesが、というかJohn Coltrane,Red Garland ,Paul Chambers, Philly Joe Jonesのいわゆる「黄金クインテット」時代が一番好き。もうメンバー全員が完璧。
このアルバムの「All Of You」「Bye Bye Blackbird」で繰り出される「計算し尽くされたハートウォーミング」にわかっていてもやられる。
尖りつつもしっとりしたミュートの高音域が、まったりしたピアノが奏でるブロックコードが、訥々としたテナーの誠実さが、毛羽立ったりささくれたりした気分とか心とかに染みこんでいく。
レコードで聴くMilesのミュートトランペットの音色は素晴らしい。
それがガーランド節、コルトレーン節と絡んでますます良いものになっている。
このアルバムは黄金クインテットの繰り出す「間」を聴くアルバムだ。

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