路上のソリスト (2009/米=英=仏)/ジョー・ライト/ベートーヴェンまみれ/なかなかに社会派リアル路線

amazon ASIN-B002NDT3E6ジョー・ライト監督の「路上のソリスト」 (2009/米=英=仏)を観た。
L.A.タイムズの人気コラムニストである男が、ベートーヴェンの銅像のある公園で二本の弦のヴァイオリンを弾いているホームレスに出会った。
彼はそのホームレスに話しかけ、彼がジュリアード音楽院に在籍していた過去を持ち、彼が天才チェリストだと呼ばれていた事を突き止め、コラムのネタにするために彼の生い立ちを記事にし、彼の支援を始めるが、いつか彼らは友情で結ばれてゆく事になる。
てな感じのストーリであるが、元々の原作はそのL.Aタイムズのコラムである。
コラムの映画化というのも中々珍しいように思う。
ジェイミー・フォックスがその統合失調症のホームレスを演じているのがポイントで、そのナサニエルがベートーヴェンにとても傾倒していることもあり、この映画には全編にわたってベートーヴェンの音楽が使われていた。
ベートーヴェン好きにはたまらない映画であろう。


中でもこの映画で一番「うっ」と来るのは、コラムを読んだ読者から彼へプレゼントのチェロが届き、彼が久しぶりにチェロを弾く、パッケージのシーンでーある。
そして彼の演奏する曲はイ短調の弦楽四重奏15番の第3楽章のチェロパートで、ベートーヴェン本人により「リディア旋法による、病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」と題された楽章である。
私にとってもこの弦楽四重奏15番は、中でも第3楽章は最も好きな音楽の一つであるので、これはなんとも感動的であった。
この統合失調症を病んでいるナサニエルが「病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」を最初に弾くのはなんとも象徴的な意味を付与されていると思うのだが、その事に言及しているのを見たことが無いのでここに書いておく。
ネット上ではこの映画に関して、良い映画やけど音楽がグッと来なかったという意見が多いようであったが、ベートーヴェン好きである私には映画中にかかる曲全てが親しみのある曲で一々グッと来たのであった。
映画の最後に演奏される曲が、交響曲第9番の第3楽章であるというのも、第4楽章「歓喜の歌」の前の楽章である的な意味があるんでしょうな。
そして、直接映画とは関係ないけど、コラムニストが乗っている車が私が乗っているクルマと同じ、サーブ9-3のハッチバックでちょっと親近感が湧いた。
ストーリー的には幻聴に悩まされて音大を中退したホームレスとコラムニストの交流がメインであるけど、アメリカ最高のホームレス人口を抱えるというL.Aの側面も多く描かれており、なかなかの社会派な側面も大いにあった。
統合失調症でホームレスであるナサニエルに対して上から目線の支援者のつもりであったコラムニストが、彼に対して敬意を抱いて本当の友人となってから、彼に対する本当の意味での治療が始まった事、
そして、映画の中のナサニエルは「治った」のではなく、「治療が始まった」に過ぎないところであるところも、統合失調症の治療の難しさも上手く表していたように思う。
さすがに新聞のコラムが原作というだけあって、
ただなんとなく感動するだけの映画ではなく、なかなか奥深くい社会派リアル路線な側面もある映画であった。

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