栗本薫 『ぼくらの時代』『ぼくらの気持ち』『ぼくらの世界』/ 若者の主張系ミステリ??

amazon ASIN-4062759330amazon ASIN-B000J7WAUMamazon ASIN-4061840835栗本薫の本ってのはグインサーガ以外読んだ事がないので、死去を機に色々と読んでみたのだが、その一番最初に読んだのが1978年に出版された江戸川乱歩賞を受賞したらしい『ぼくらの時代』 である。
私は本好きではあるが、ミステリってのはほとんど読まず、江戸川乱歩賞ということで硬派なミステリだと思ってずっと読み続けていたものの、最後の最後で若者の主張が飛び出してちょっとびっくりした。栗本薫は当時24歳だったらしい。大人vs若者の構図で世の中を眺める見方はちょっとノスタルジックであったけど、何かしら読むものの心を打つものがあった。ってこれはミステリなのか?
登場人物の一人による単独ストーリーが別にあるらしいけど、「ぼくら」シリーズは一応三部作ということになっているらしく、その続編にあたる1979年の『ぼくらの気持ち』 も乗りかかった船ということで読んでみた。
なんというか展開の無理矢理さにミステリとしてどうなんかな?という疑問を偉そうに抱いたのだが、さらにその続編である1984年の『ぼくらの世界』はなかなかに面白かった。


表紙の三人が徐々に年を取っていくように、基本的に「ぼくらシリーズ」の「ぼくら」ってのは主人公とその仲の良い友人二人を合わせた三人の話である。
『ぼくらの時代』 では三人が大学生の時代の話であり、『ぼくらの気持ち』 では一人がサラリーマンとして働き始めたくらいの三人が大学を卒業した直後の、三人が社会での位置を模索し始めたくらいの話、『ぼくらの気持ち』 ではそのサラリーマンの一人が結婚しようとするくらいの、三人が社会での方向性を固定し始めようとした時代の物語となっている。
登場人物である「栗本薫」は著者自身の分身として著者自身の言葉を代弁しているのだろう。
三部作の最期でミステリ作家として歩み始めた「栗本薫」が「大人社会の論理」と「コドモ世界の価値」を明確に対立するものとして、「大人社会の論理」を選択して自分から離れてゆくように見える友人二人をよそに、「コドモ世界の価値」を追求することを心に決める。
そのあたりは既に著者の『コミュニケーション不全症候群 』を読んでいたがゆえに、すっと心に染み入ったような気がする。
確かに、栗本薫らしいといえば栗本薫らしい本であった。

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