手塚治虫 『ブッダ』 / 最初から最後まで苦しむ聖者/知ったかぶらないブッダ

amazon ASIN-4267890021いってもここ一年か半年くらいの話であるが、読んでいなかった昔の漫画を読むようになった。
『カムイ伝』とか『バビル二世』とか『エリア88』、『デビルマン』、『サイボーグ009』、『火の鳥』とかそんな感じの古い漫画を片っ端から読んでいて、世間で神のごとくに崇められている手塚治虫がほどそれほど面白いのか?むしろ大して面白くないのではないかと思っていたのだが、『ブッダ』を文庫版で全巻読んでとても面白く、その考え方が変わったように思う。
この『ブッダ』については、仏典と相違が多く手塚治虫の創作の部分が多数あるのだが、正当なブッダ伝ではなく、それを基にした二次創作と考えれば、とてもいい漫画になっていたと思う。
この漫画で印象的だったのは、シッダルタ自身の一個の人間としての苦しみや悩みであり、そしてその苦しみからの離脱の方法を悟った彼が、それを他の人々に分け与えようとする点である。
シッダルタ自身は突出した超人でもなんでもなく、最初から最後まで苦しみ悩みぬくのである。


個人的な悟りのレベルや超人的な能力のレベルでいえば、アッサジやアシタなど、「ブッダ」であるシッダルタよりもブッダ度の段階が高い人物が登場するのだが、シッダルタが真のブッダである所以は、彼自身が苦しみながら得たその知恵を彼自身が自分自身だけで完結させてしまわずに、他の苦しむ人々に分け与えようとした部分にあるというところが強調して描かれていて良かった。
この本の中では、本来のシッダルタが持っていたペシミスティックな視点は殆どなく、世界の美しさだとか、自然との一体感だとか、人間も自然の一部であり、人間と動物は対等であるというような話が根源的な主張として展開されている。
そして、聖者やブッダとしての個人的な力量よりもそれをどう人に伝えて分け与えるかが、個人の資質よりも自分よりも他人にどれくらい目を向けるかが大事なこととして主張されていたように思う。
そしてそれは、個人的な力量を鍛える特殊な方向性ではなく、実際に誰にでも歩むことの出来る道なのである。
物語のはじめと最後で繰り返される、飢えた旅人の為に自ら火の中に飛び込むウサギのモチーフがこの物語全体を現しているのだろう。
最初は「それはちょっとやりすぎやろう」と見えていたものが、最後には違和感なく見えてくるのがこの本の素晴らしい所であると思う。



1件のコメント

  • 「ブッダ」手塚治虫

    手塚の解釈によるブッダは他と違う。   シャカ族の王子として生まれたシッダルタ。その生涯は苦しみに満ちていた。戦争、飢餓、自然災害、疫病、そして階級差別。…

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