阿部和重の『無情の世界』

amazon ASIN-4062091313阿部和重の『無情の世界』を読了。
「無常の世界」ではなく「無情の世界」であるけど、ググると「阿部和重 無情の世界」より「阿部和重 無常の世界」の方がヒット数が多い…
この本は今から10年ほど前の1997年から1998年にかけて書かれた三篇の短編が収められている。
それぞれの話の主人公は、ストーカーのエセ家庭教師にすっかり影響された教え子、気が弱くて妄想たっぷりの高校生、自己中で女たらしのダメ男、等と阿部和重の小説らしく見るに耐えないどうしようもない人物となっている。
それら三つの短編はそんなどうしようもない主人公たちが引き起こす破滅と言うか破綻の物語であるけど、良くある小説のようにそんな物語を楽しむのではなく、醜くて愚かな彼らをブラックに笑い飛ばすのが趣旨の物語であるように思う。
著者の他の小説同様やっぱり読者を選ぶやろうなぁ。


「うわっ。きついなぁ…」という感覚を抱きながら読み進む事になるけど、彼らの喋ったり考えたりする内容が余りにも稚拙やのに変に論理的だったりするところが妙にツボで変に笑いがこみ上げてくる。
彼らの全てが例外なく醜くて嫌悪感を抱くような人物やけど、よくよく考えて見れば彼らは狂気であるとは言い切れ無いけど絶対正気では無いという微妙な狂いっぷりであるし、実際こういう人物はそこらじゅうにいてそうである。
そんなどこにでもいてそうな微妙な狂いっぷりな彼らが引き起こすカタストロフは読んでいて変にリアルに感じるのだが、実はそんなカタストロフもいつでも起こりうるのだと考えると結構不気味でもある。
登場人物の誰もが正気で無く、読者に同情や共感どころか嫌悪感だけを抱かせて、それでも変なリアリティー込みでちゃんと読ませるのは凄いなぁといつも思うのであった。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。

PAGE TOP