映画:岡本喜八「血と砂」/ジャズ魂
「日本誕生」を観た後、立て続けに三船敏郎目当てで、岡本喜八の「血と砂」(1965/日)を観た。同名のスペインの話の映画もあるようやけど、それとは関係ない。
設定は前に見た「独立愚連隊」と良く似ており、中国大陸の北支戦線で敵に奪われた最前線の砦を、三船敏郎演じる人情味溢れる歴戦の勇者である曹長が率いる、武器を使った事の無い音楽学校を出たばかりの少年兵の13人、気の荒い板前の7年兵士、人を殺すのが嫌な埋葬ばかりしている葬儀屋、平和主義者の万年営倉の男で構成されたアクの強すぎる部隊が奪還するべく出発する。と言う感じである。
少年兵達が行進しながら演奏する「聖者の行進」のシーンから映画が始まり、馬に乗った三船敏郎が現れて合流する。ゲリラと一悶着あった後に川を渡り、途中で道連れになった団令子がヴィブラフォンをBGMに水に濡れて裾をからげてスローモーションで走るシーン、彼女に欲情した少年たちの吹く哀しげな口笛、その口笛がBGMになり小隊は行進を続ける。これは完璧や…この映画が面白くない訳が無い。と言う確信である。
主人公は三船敏郎と、名を持たずトランペット、チューバなど楽器名で呼ばれる少年兵たちやけど、曹長にヤキバ砦攻略を命じる仲代達矢、曹長を前線まで追い、少年兵達の戦う理由の元となる団令子演じる慰安婦、何とも言えない味を醸し出す葬儀屋、その他の役者達のキャラクターがとても生き生きと魅力的であった。
この映画と先の独立愚連隊で描かれる楽しそうに朗らかに働く戦場稼ぎとしての慰安婦と女郎部屋となっている慰安所の設定から、この映画が地上波やメージャーな媒体で表に出てくる事は無いだろう。
しかしこの慰安婦の設定同様、日本軍と日本兵、中国軍と中国兵の設定も無茶苦茶である。音楽隊だけで構成された攻撃隊や、楽器を背負って敵に奪われた砦に攻め込む様、言いだしたらきりが無いほどの荒唐無稽な物語である。
軍隊やら戦争なる制度や状況を笑い飛ばすと同時に慰安婦と慰安所なる状況と制度をもまた笑い飛ばす意気を見たような気がする。
これはあまりにも微妙な問題なので、完全に荒唐無稽なパロディーとして笑いにしてしまうしかないのだろう。もしくは最初から何も気にしていないかだ。
最初はエンタメ系娯楽映画の勢いで進みながらだんだんと雲行きが怪しくなってくるあたりがなんとも素晴らしい。娯楽要素満載で全編笑いと岡本喜八節の台詞とカットで回しながら、とてつもなく計算し尽くされているのが良くわかる。
少年一般を連想させる、名を持たぬ役割の名で呼ばれる少年兵達が、天皇ではなく慰安婦の為に砦を守る事を決意し、自らの武器である楽器でひたすら塹壕で戦う様の壮絶さに、強烈な反戦意識を見る事が出来る。
でも、そういったただの反戦映画として見るだけではこの映画は勿体無い。「娯楽映画の皮を被った反戦映画」と見せかけた娯楽映画として見るのがこの映画の素晴らしさをちゃんと感じるポイントではないだろうか。
突きぬけて明るいジャズとその根底に流れる哀しみを少年兵達の演奏する「聖者の行進」は見事に表わしていたように思う。ちょっと涙腺弱めのジャズ好きなら号泣であろう。ジャズとかブルースの真髄とはこういった感じであろうか?
どちらかと言うとマイナーな映画なのやろうけど、あらゆる要素の詰まった、一点の非の打ち所も無い、とても素晴らしい名作であると言い切りたい。