映画:「28週後…」 / ヨーロッパ史観ゾンビ映画 / 愛ゆえに!

amazon ASIN-B00165SDW0「28日後…」 (2002/オランダ=英=米)の続編である、「28週後…」 (2007/英=スペイン)を観た。
人間を凶暴化させる血液と唾液によって感染する「RAGEウィルス」の感染者から身を潜めながら、生き残った人々と郊外の一軒家に非難していた男が、感染者達の襲撃から妻を見捨てて逃げ出しから28週後、感染者の死滅とウィルスの消滅によって安全宣言がされたロンドンの復興が始まっていた。
復興政府の重要なポストについていたその男はスペインに旅行していた息子と娘をロンドンに呼び寄せて新しい生活を始めるが、ちょっとしたきっかけによって、収束したはずのウィルス騒ぎが再燃し、ロンドンはパニックとなる。
イギリス映画的というのだろうか、やたらと暗い雰囲気の上にハリウッド的な要素も満載の面白い映画であった。
ゾンビ映画ってのは基本的に笑えるものであるけど、この映画はちょっと笑えない。
ネット上でもやたらと評判が高いのも納得である。


前作の「28日後…」でも「感染者」がすごい勢いで襲ってきた記憶があるけど、この映画の「感染者」はやたらと素早くダッシュで襲い掛かってくるイメージがある。この映画は前作に増して「ゾンビ」というよりは「エイリアン」に近いこの「感染者」の動きがやたらと印象深かった。
「感染者」は死体がよみがえったわけではないので正確には「ゾンビ」ではないのだろうけど、この「RAGEウィルス」への感染というのは「味方への敵対化」「他者への感染」という意味合いで「ゾンビ現象」と言えるだろう。
映画「ゾンビーノ」の感想を書いた時に、たいていのゾンビ映画に共通するゾンビ現象のもっとも不幸で悲劇となりうる側面として「家族や愛する人がゾンビ化して自分を襲い、ゾンビ化した自分が家族や愛する人を襲うところにある」と書いた。
ゾンビ化した肉親が自分を襲い、ゾンビ化した肉親を殺さずに見逃すことでさらに惨劇が広がり、政府が個人を無視して事態の収拾を図ろうとする状況の場合、大雑把に言ってしまうとハリウッド系シリアスはそういった状況を「個人的な感情としてシリアス」に描きがちだが、この映画は個人の感情に力点を置くのではなく「そういった状況自体がシリアス」として描いているような気がする。
ネット上でこの映画の歴史観がヨーロッパ的であるという感想を読んだのだが、たしかに自己実現と正義とヒーローとアメリカンドリームの国で作られた、個人が尊重される英雄的でハリウッド系な「バイオハザード」と比べて、「この28n後…」シリーズは、大きな力に大して個人がことごとく無力に押しつぶされ、ヒーローだったはずの人も故郷であった国も簡単に消えるような、戦争と侵略と滅亡と隆盛のヨーロッパの歴史観を感じさせられるものであるかもしれない。
この映画は市民の「愛」ゆえの行動がことごとく社会的な惨劇につながってゆく側面と、体制側が全体を守るために市民に対して過剰なまでの無慈な行動を選択する側面を持っていた。
正しいとされる感情に基づくの破滅的な現象の原因を作り出した主人公の一家の行動と、その行動を管理しきれなかった体制、そして破滅的な事態の収拾のために体制の取った手段と、その対象となる主人公一家、一つの事実を取ってみても立場によって受け取り方と正当性がまったく違う。
そういった歴史なり人間の持つ矛盾とか多義性とか重層性を感じさせるところがこの映画に深みを与えているところだろうと思った。

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