オタール・イオセリアーニ 「群盗、第七章」 (1996/仏=スイス=伊=露=グルジア)
オタール・イオセリアーニの「群盗、第七章」を観た。
「群盗」と言えばフリードリヒ・フォン・シラーのデビュー作である有名な戯曲なので、五幕からなる構成のこの戯曲の何らかの続きを「第七章」として撮ったのやと思っていたけど、どうもそうではなさそうだ。
戯曲の『群盗』の原題は『Die Räuber』であるけど、映画の「群盗、第七章」の原題は「Brigands, chapitre VII」とニュアンスが違うような気もするし、物語の方向性としても違うような気がする。ネットで調べて見た限りシラーの『群盗』とオタール・イオセリアーニの『群盗、第七章』を関連付けて語っている人も見つからなかった。
ストーリーは監督の故郷であるグルジアの歴史と現在のパリの出来事を断片的に繋ぎ合わせたような感じである。
戦争と陰謀と毒殺と処刑に明け暮れる中世の王、市民がビルの屋上からドラグノフで狙撃され、装甲車と榴弾砲が街を行き交う内戦状態の街をタフに生き抜く浮浪者、革命前はスリだったものの、革命後には密告と拷問と処刑が渦巻く社会の中心に位置する政府の高官となった男、を中心にした3つの時代の物語が断片的に混ざり合う構成なのやけど、それぞれの時代の人間を同じ役者が演じているところが面白い。
映画全体として共産党独裁時代の話が多く、拷問だの密告だのなかなかヘビーな部分が多くて全体的にちょっと暗いような気がする。
時代の移り変わりだの、人間のやってる事の変わらなさだの、色々な要素はあるやろうけど、人間の愚かさとか野蛮さをクスクスっと笑える味付けにしてあるのが良い感じで、面白い映画やった
それからもう一つ今までにないフランス映画の特徴として、ほんの少しやけどパリに暮らす黒人たちが出てくるところではないだろうか。
パリと黒人を同時にフレームに入れるフランス映画を初めて観たのやけど、このへんもちょっと監督の意図のような気もした。
とここまで書いて、権力に反抗する崇高な犯罪者を主人公として描いたシラーの『群盗』と逆説的にも直接的にもちょっと引っかかる要素ありそうやん。と思った。