ギャスパー・ノエ 「カルネ」 (1991/仏)

amazon ASIN-B00005HL3G先日見たギャスパー・ノエの「カノン」の前作であり、かつ、この監督のデビュー作でもある「カルネ」を観た。本来なら「カノン」の前に見たかったけど、レンタル屋さんにおいてなかったのでアマゾンでレンタル落ちのVHSテープを買った。
妻に子供を置いて蒸発され、一人身でまったく言葉を発しない娘と住んでいる馬肉屋の男の物語。毎日毎日馬を切り刻み、娘を風呂で洗い、同じ日常を過ごしつつも、娘が女になって行くのにある種の不安を抱いていた矢先に事件は起こる。
邦題と原題でもある「カルネ」はフランスで健康には良いけどやたらと安くて赤いせいで忌み嫌われている「馬肉」のことであるらしい。
前作「カノン」があまりにも強烈やった上に、ネット上の評判を見る限り同じような強烈な映画やと思っていたたけど、強烈さという意味ではこの「カルネ」は「カノン」に比べてまったくたいしたことなかった。


「カノン」では馬肉屋のオヤジはあまりにも最低すぎたけど、この映画ではある程度感情移入して観られるほどにの普通ちょっとおかしい目のおっさんやった。娘が女になってゆくのを、娘自身の他者からの危険を増大させる原因であると同時に、自分自身が娘を女として見てしまいつつある事をある種の危機としても見ている視点がかなりまともである。それでも普通の映画に比べれば映像はかなり強烈で、冒頭の馬の屠殺解体シーンはなかなか来るものがあった…
「カノン」を観てからこの映画を観るとその刺激の弱さからちょっとつまらん映画に見えるかも知れんけど、基本的には不器用で熱しやすく暴走しやすいおっさんの愛の物語である。強烈な映像が多いわりにかなりちゃんとしたまともな映画やと言う印象を受けた。
強烈な映像と描写がとかく取り上げられがちな映画やろうけど、その影にあるフランス文学の心理描写を思わせるなんとも言えん心暗くてナイーブな雰囲気を漂わせた良い映画やったと思う。アニエス・ベーの絶賛もさもありなんという感じやった。
この映画を持ってきておいて、その続編である「カノン」でここまでぶっ飛ばされるとかなりびっくりするやろう。カノンを作ることを考えた上でカルネを撮ったのやとしたら、「カルネ」から「カノン」への流れは計算しつくされた展開であるのかもしれない。
ネット上で「カノン」の感想を読んでいた時に、「カノン」は深い愛の物語であり、ラストシーンで号泣した。という人が結構いて「はぁ?」と思っていたけど、この「カルネ」を見た後にこの物語の続きとして「カノン」を観たら「カノン」での主人公の罵倒も不満もすべては愛に結びつくわけで、確かに愛の物語であるとうことが納得できるかもしれない。
そういう意味で、観るならちゃんと公開年どおりに「カルネ」→「カノン」を観たかったなと思った。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。

PAGE TOP