伊藤計劃『ハーモニー』/高度福祉社会でのカミュ的実存問題を問う

伊藤計劃『ハーモニー』/高度福祉社会でのカミュ的実存問題を問う

『虐殺器官』ののちに起こった「大災禍」から生き残った人々は「国家」という枠組みではなく「生府」なる高度に発展した医療システムによる統治機構を生み出し、寿命か事故以外では人が病み死ぬことのない完全な医療福祉社会を実現していた。 そんな世界の中で息苦しさを覚える少女たちが主人公の話だ。 高度福祉社会を描くことでよりコントラストが高くなって浮き出てくる生命の尊厳や自由意志にまつわる「福祉国家」のはらむ矛[…]
虐殺器官/限りになくSFに近い純文学

虐殺器官/限りになくSFに近い純文学

現代化から見てとてもリアルに感じられる世界情勢とテクノロジーのあるディストピアな未来を舞台にした「暗殺」を専門にする軍の情報特殊部隊の構成員が主人公の、世界各国の発展途上国で起こる「虐殺」をプロデュースする「標的」を追う物語だ。 主人公は現場での実働部隊の軍人でありながら「言葉」に拘りをもつ文学好きで知的でナイーヴで傷つきやい青年でとても幼くすら見える、「そんな装備メンタルで大丈夫か??」と言いた[…]
映画『Winny』/プログラムは自分自身の表現だ 映画

映画『Winny』/プログラムは自分自身の表現だ

先日映画『Winny』を観て来た。映画を映画館で観たのは久しぶりだ。 IT業界に身を置き、技術者であり開発者であり、そして当時を知る私にとってとても面白い映画だった。 この映画の言いたいことは、つまるところwinnyは当時世界をリードしていた技術が搭載されており、その開発改良を国家権力によってストップさせたこと、金子氏の開発者としての活動を7年も裁判で縛り付けて停止させたことは大きな国家的損失であ[…]
『〈わたし〉はどこにあるのか 』マイケル・S・ガザニガ 運命論を科学的に否定する

『〈わたし〉はどこにあるのか 』マイケル・S・ガザニガ 運命論を科学的に否定する

せっかくブログもリニューアルしたことなのでここしばらくでとても面白かった本のことについてでも書こう。 「認知神経科学」であるマイケル・S・ガザニガ の『〈わたし〉はどこにあるのか――ガザニガ脳科学講義』で、著者によるギフォード講義の内容を本にしたものである。 原題は"Who's in Charge? Free Will and the Science of the Brain"で、「責任はだれにあ[…]
岡崎京子映画を一通り観た 映画

岡崎京子映画を一通り観た

私は岡崎京子の漫画が大好きで出版されているものは一通り読んでいて、それらの漫画を原作にした映画も一通り見ているので感想を書いておく。 原作が有名なものからマイナーなものまで、 原作に忠実なものから明らかに違う世界になっているものまで、 映画化されたものもいろいろである。といっても4つだけやけど。 これもFilmarksに投稿したものの抜粋で並び順は映画として新しい順。 「ジオラマボーイ・パノラマガ[…]
ヒトが求めるもの グイン・サーガと物語と利己的な遺伝子 日記/雑記/妄談

ヒトが求めるもの グイン・サーガと物語と利己的な遺伝子

ここ2年くらい前から新刊が出ているのにあまり読む気にならずスルーしていた『グイン・サーガ』なる小説を先日再び読み始めた。 この『グイン・サーガ』なる小説は当時はそんな区分もなかったけど、今で言えばヒロイック・ファンタジーとライトノベルをあわせたようなジャンルになるであろう、1979年に第一巻が出版されてから現在に至るまで142+26巻以上からなる世界でも類を見ない長大なシリーズとして続いている。 […]
『深い河』の『リバーズ・エッジ』

『深い河』の『リバーズ・エッジ』

今年の夏に初めて遠藤周作の『深い河』を読んだ。 大雑把に言えば様々な人生の重みやら苦悩やらなんやらを抱え込んだ主人公たちがそれぞれのテーマを抱いてインドへのツアーに参加し、清濁が混ざり合い混沌としたインドやらガンジスやらヒンズーやらに身を置くことで、人間とか生とか死とか愛とかいったような、いわゆる宗教的、哲学的と呼ばれるようなテーマに向かい合う様を描く物語ということになろうか。 確固とした文芸的ポ[…]
「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」@伊丹市立美術館 岡崎京子とニーチェとバタイユとフェミニズム ミュージアム

「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」@伊丹市立美術館 岡崎京子とニーチェとバタイユとフェミニズム

伊丹市立美術館で開催されている「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」に行ってきた。 結構マイナーな展覧会らしくあまり情報がなく、この春に世田谷文学館で開催されてから、夏に私の行った伊丹市立美術館と冬に福岡県で開催されるだけであるようである。 この展覧会では岡崎京子がまだ子供時代だった頃に戯れに描いたイラストから、学生時代に掲載された作品に始まり、書籍化されている代表作の原画だけではなく、単行本化さ[…]
あれから10年も、この先10年も 日記/雑記/妄談

あれから10年も、この先10年も

半年間このブログを放置していたけど、それでもずっとこのブログのことはそれなりに気にかけてはいた。 しかし気がつけばこのブログを書き始めて10年も経っていて、いったいこの10年間は何だったのだろうかとw もうずっとブログを書くにも書こうと思う事がそれほどなかった。と思いつつも、ほぼ毎日更新していたころは何について書くかを決めてから書き始めていたのではなく、とにかく何でもいいから書き始めているうちに何[…]
猫パンチが暴力に見えないように、雑草は遷移する。 日記/雑記/妄談

猫パンチが暴力に見えないように、雑草は遷移する。

今年もノーベル残念賞だった村上春樹の初期の作品を先日から読んでおり、今は『羊をめぐる冒険』の終盤に差し掛かったところ。 SISBN-10: 4062749122 村上春樹はこの『羊をめぐる冒険』の続編である『ダンス・ダンス・ダンス』あたりから失ったものやら隠されているものやらを「取り戻す物語」にシフトしてゆくような印象を私は持っており、彼がノーベル文学賞候補になるほどに評価されているのも、どちらか[…]
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