J.M. クッツェー 『敵あるいはフォー 』

J.M. クッツェー 『敵あるいはフォー 』

この本でクッツェーを読むのも三作目。1986年に書かれた作品であり、ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』のパロディという言われ方をするけど、当然そんな単純なものじゃない。 日本語のタイトルは『敵あるいはフォー』だが、原題は『FOE』で古英語で「敵」、ダニエル・デフォーの本名と言う二つの意味を指すらしい。 英国の女性が漂流して島にたどり着き、島に住み着いた「クルーソー」とその下僕の「フライ[…]
阿部和重 『ミステリアスセッティング』

阿部和重 『ミステリアスセッティング』

2006年の11月30日に出たばかりの新刊、阿部和重の『ミステリアスセッティング』を読んだ。 アマゾンでの紹介はかなり気合が入っていて、ある老人が語りはじめた、一人の少女の運命――ハムラシオリという、歌を愛してやまなかった女の子をめぐる、痛いほど切なく、あまりにも無慈悲な新世代のピュア・ストーリー。なぜ彼女だけが、苛酷な人生を歩まなければならなかったのか? この未知なる感動の物語は、21世紀版「マ[…]
J・M・クッツェー 『恥辱』

J・M・クッツェー 『恥辱』

私にとって二冊目となるJ・M・クッツェー『恥辱』を読了。 1999年に発表された本作は同年度のブッカー賞受賞作となった。 内容は一言で言うと南アフリカを舞台にした一人の男の転落物語である。 52才の大学教授がセクハラで大学を追われ、娘が営む農園に身を寄せて暮らし始めたものの、穏やかな暮らしに慣れ始めた頃に突然事件が起こる。 と筋だけ読むとチープすぎる内容やけど、チープすぎると言う事は逆に言えばどこ[…]
レーモン・ルーセル 『ロクス・ソルス』

レーモン・ルーセル 『ロクス・ソルス』

昨日書いたどっちが著者でどっちがタイトルかわからん、レーモン・ルーセル『ロクス・ソルス』を読了。 某サイトで面白いと書いてあったので読もうと思ったけど、それまで名前も作品も聴いた事も無かった。 著者のレーモン・ルーセルは1877年にパリの富豪の息子として生まれて音楽を学んだものの、財産を後ろ盾に細々と詩と小説を書いて生計を立てていたようだ。 彼の作品は世間からは殆ど無視されていたけど、一部でコアな[…]
J・M・クッツェー『マイケル・K』

J・M・クッツェー『マイケル・K』

ジョン・マックスウェル・クッツェーは南アフリカ出身の白人で、大学卒業後はイギリスでプログラマーとして働きながら修士論文を書き、アメリカに渡って言語学の博士号を所得、大学で教えながら作品を書き始め、1972年に南アフリカに帰国。 1983年と1999年と史上初となる二度のイギリスのブッカー賞を、2003年にはノーベル文学賞を受賞とキャリアは十二分。 一度目のブッカー賞受賞作となったこの本の内容は 激[…]
阿部和重 『プラスティック・ソウル』

阿部和重 『プラスティック・ソウル』

阿部和重 『プラスティック・ソウル』を読んだ。 1998年から2000年までの連載小説が2006年3月に単行本化されたもので、明らかに芥川賞を取った後の阿部和重需要が上がったために世に出ることとなった本のようである。 この連載中に「シンセミア」の連載が始まったこともあって、とても苦しんだ連載だったようであり、阿部和重自身がこの本の出版を渋り、あまり自身のある作品ではないといっているところは巻末に詳[…]
レベッカ・ブラウン 『私たちがやったこと』

レベッカ・ブラウン 『私たちがやったこと』

レベッカ・ブラウン『私たちがやったこと』を読了。 最近読んだ二作『体の贈り物』『家庭の医学』のいわるゆる「介護文学」なるものとは全く色合いも雰囲気も違う話であり、基本的には「私」「あなた」の一人称と二人称で語られる、カップルを巡る七編の短編で構成されている。安全のために、私たちはあなたの目をつぶして私の耳の中を焼くことに合意したと中々ブッ飛んだ出だしで始まる表題作のように、狂気じみた、というか狂気[…]
ミラン・クンデラ『ほんとうの私』

ミラン・クンデラ『ほんとうの私』

子供を失って離婚した高給取りの女性と、年下の知的ダメ男系の熟年カップルの恋愛について書いた小説。 なぜか本国フランスよりも日本語版が先に発売されたと言う、日本をターゲットにしたと思われるこの本。 そこのところの意図は結局わからんままに終わった。まぁ特に訳なんか無かったのかも知れんけど。 小説形式は今までのような小説内に作者が登場したり、何かについて雄弁に語ってみたりと言うことは一切無く、どちらかと[…]
レベッカ・ブラウン 『家庭の医学』

レベッカ・ブラウン 『家庭の医学』

レベッカ・ブラウンの『家庭の医学』を読了。 この間読んだ同じ作者の『体の贈り物』がHIV患者のホームケア・ワーカーの話だったけど、今回は末期癌となった母を介護する話。 母の体調が悪くなって病院に行き、癌である事、転移してすでに手遅れであることが判明し、様々な延命治療や緩和治療を施し、ホスピスで死を看取る、というところが語られる。 前作と同じような淡々と感情を表さない語り口が読む者の心を揺さぶる。と[…]
阿部和重 『アメリカの夜』

阿部和重 『アメリカの夜』

最近お気に入り小説家である阿部和重のデビュー作である『アメリカの夜』を読了。 自分は特別な存在ではないか?などと思い描く男を自分の分身として描写する男を描いた、ちょっと聞いた感じではややこしい話。 デビュー作のこの作品も、阿部和重の書く小説を特徴付ける(と思っている)共感も同情も出来ない痛々しい主人公と登場人物のみで構成されている。 人と違うこと自体に価値を認め、身の程を知らず、無根拠な自信に満ち[…]
PAGE TOP