映画:アンドレイ・タルコフスキー「ノスタルジア」 / 良い意味で激しく眠たい映画

amazon ASIN-B00006S25Rアンドレイ・タルコフスキーの映画の中で一番の傑作であると言う声が高い「ノスタルジア」(1983/伊)を観た。
彼はこの映画の製作のために出国し、完成後そのまま亡命したらしい。
ロシア人作家の主人公が、故郷ロシアに帰れば農奴になることが分っていながら帰国して自殺した音楽家の取材のために、通訳の女性を伴ってイタリアを旅していた。
旅の最終地である温泉街で主人公は、終末が来ると信じて世界を救うために日々を生きているという、周囲から狂人扱いされている男と出会い、彼に興味を引かれてゆくというもの。
「ノスタルジア」の題名どおり、監督のタルコフスキー自身の故郷に対する思いが色濃く反映された映画である。
とにかく、ひたすら美しい映画であった。


周りからはまったく理解されないけど、本人は世界のために家族と自分を犠牲にしてまで命をささげている、狂人にしか見えない人物の中にある真摯さは妙に心に響くものがある。
彼は、一滴の水滴が二つ合わさって一滴の水滴になる、いわゆる「1+1=1」の論理を説いていたけど、彼はまさに世界に影響を与える一滴の水として、世界と混ざり合ったということなのだろうか。
後半のカンピドリオ広場のマルクス・アウレリウス像上での演説は、今となれば使い古されてしまったような雰囲気と語彙であまりにも胡散臭く感じてしまうだろうなと思えるのがちょっと残念であった。
今までに見たタルコフスキーの映画と同じく、映画の半分までは耐え難いまでに眠たい。しかし、半分を過ぎるとトーンも全く変わらないのに眠たくなくなり、映画に引き込まれてゆくのは本当に不思議な感覚である。
映画としては、この映画の次に作られた、前に見た「サクリファイス」の方がはるかに感動したけど、この映画はタルコフスキーののシンボルである「水」を基調にした映像が本当に美しかった。
いわゆるハリウッド系の「映画らしい映像」というのは今まで映像化できなかったものを映像化する方向性の試みの、どちらかといえばアッパー系な方向性が多いように思うけど、このタルコフスキーの撮る映像が絶賛されるのは、ほかの何のメディアでは決して表現できない、映画でしかなしえない美しさでダウナーなトリップ感に陥るところにあるのだろうと、この映画を観てつくづく思った。
ネット上でこの映画に対して、「映画が芸術であることのもっとも有効な証拠である作品」とまで言う人がいうくらいであり、そういう意味で映画にしかできない表現の一つの方向性の、何かしらの極致とされるのもうなづけるような気がした

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