ダニー・ボイル 「28日後...」 (2002/オランダ=英=米)
人間の血液を介して感染する、感情や知性が消えて凶暴性だけになるようなウィルスが蔓延してゴーストタウンと化したイギリスを舞台に、生き残った数少ない人が襲い来る感染者たちと戦いながらサバイバルする話である。
一応ゾンビ系ホラーな括りになっているけど、襲ってくるのは「ゾンビ」ではなく「感染者」なのがミソ。
ゆっくりじっくりと恐怖が這い上がってくるようなホラーではなく、どちらかというと包囲された感が持続するモンスターパニックな雰囲気であった。
不意に突然結構なスピードで襲ってくる感染者はゾンビというよりはエイリアンな感じである。
しかしながら感染者は知性を失っているので、エイリアンのように物陰や背後からこっそり襲ったり、尖った尻尾でさくっと刺したりと言った知恵も武器もなく、「ガーッ!」と叫びながら真正面から飛び掛って(あるいは後ろから)噛み付く。というだけなのが中々に微笑ましい。
そんなエイリアン系パニック映画の要素とはまた別に、世界崩壊後の世界でサバイバルするための、外面的にも内面的にも人間の極限状態を描いているという側面があるだろう。
正常である方の人間が感染した人間を何のためらいもなく鈍器や刃物で惨殺し、自分の仲間でさえウィルスに感染したと知るや、マチェットで襲い掛かって切り刻んで瞬殺する。と言ったような、自分が生き残るために一般的に「人間性」と呼ばれるようなものをことごとく廃したある種のエゴの拡大の側面とでも言おうか、ただのゾンビ風モンスターパニックではなく、イギリス映画っぽいというかやたらと暗くて陰鬱な雰囲気が漂っていたような気がする。状況もメディアも違うけど、ポール・オースターの『最後の物たちの国で 』と雰囲気が似ていてとてもいい感じ。でもそれも中盤までで、後半からアクション映画になって来る。
屋敷から逃げ出した主人公が上半身裸で奮闘する様は見た目までそのまま感染者やん。と思うとちょっと可笑しかった。途中からわけわからんくなって来て、感染したほうも感染してないほうも「俺は人間をやめるぞ! 」って感じでした。
イギリス映画にはこのジメジメ感と麻薬がつきものなのやろうか。人間が怖いホラーが一番怖いと常々思うけど、この映画は主人公が一番怖かったような気がするなぁ…
テンポ良く目を離せない面白い映画でした。
しかし、ウィルスに感染してようがなかろうが、映画の中だろうが現実の世界だろうが、自分とは違う人と見るや罵倒して飛び掛って噛み付かずにおれない存在と言うのは中々に難儀やなぁ。