ヴェルナー・ヘルツォーク 「フィツカラルド」 (1982/独)
天然ゴム景気に沸く19世紀末のペルーのアマゾンの奥地で、鉄道事業の失敗で破産して細々と製氷業を営む、オペラを何よりも愛するフィツカラルドという男がいた。
彼はジャングルの奥地にオペラハウスを建設すると言う壮大な夢を叶えるため、まず手始めに莫大な富を得るためのゴム農場を手に入れようと、秘策を練って手付かずに残っている危険な滝と瀬と凶暴な先住民に阻まれたゴムが生い茂るジャングルの奥地を目指す。
彼は娼館を経営する恋人の援助によって、巨大な蒸気船を手に入れ、その恋人の名をつけた蒸気船を駆って一癖もふた癖もある乗組員と共に無謀な冒険に繰り出す。というもの。
最初にタイトルを見た時は「フィツカラルド?フィッツジェラルドでなく?」という疑問を持ったけど、主人公の男の正式な名前は「フィッツジェラルド」で、それをペルー風に発音すると「フィツカラルド」と言う事らしい。
そのフィツカラルドをクラウス・キンスキーが演じるわけやけど、誇大妄想にとりつかれた狂気じみた男がアマゾン奥地を目指して探検するってところは「アギーレ 神の怒り」に似ていない事も無いけど、主人公は鎧と兜ではなく白いジャケットとパナマ帽を身に着けているし、先住民を攻撃したり部下の首を切り飛ばしたりしないうえに、平和主義者で彼女には優しいのでだいぶ違う人間に見える。
それでも、部下たちが愛想をつかして逃げ出すほどの彼の滅茶苦茶な強引さと狂気という点で見れば大して変わらないだろう。
物語の中盤から終盤にかけて秘策によって川から川へ巨大な船を移動させる事になるのやけど、そのあたりは「水曜スペシャル」ではなく「プロジェクトX」という感じであろうか。
この撮影当時はCGも特殊効果も無かったので、スタッフは実際にこの作業をやってのけたらしい。
滅茶苦茶な土木作業といい自然破壊といい、今は映画を撮るだけのためにこんな事絶対できんやろうなぁ。実際この映画の撮影はとんでもないくらいに大変やったそうだ。
こんな滅茶苦茶な撮影をやってのける監督、ヴェルナー・ヘルツォークこそが狂気に駆られた誇大妄想家であるアギーレでありフィツカラルドなんやなぁと思った。
船首に置かれた蓄音機からオペラを流しながら、巨大な蒸気船が黒い煙を吐いてジャングルの奥地の細いアマゾン川の支流を遡るシーンは中々に美しかったし、最後の最後で自分の村に返ってくるシーンは中々に感動した。
こういう気概で仕事が出来たり人生に臨めたら良いなぁと思った。この映画を観た後、なんとなく「地獄の黙示録」が観たくなって来た。