映画:こねこ/猫がいっぱい!愛がいっぱい!オッサンのダメダメ加減もいっぱいいっぱい!
洋画では類を見ない「文部省選定映画」に選定され、ネコ映画の最高峰として名高いイワン・ポポフ監督「こねこ ~旅するチグラーシャ~」 (1996/露)を観た。
以前からずっと観たかったのだがやっと見る事が出来た。私が観たものは旧版のDVD でイメージソング「チグラーシャ」なる良くわからんシングルCDがついていた。
なんとなく「ロシア民謡コロブチカ」か「パルナスのCM」のようなのを期待していたのやけど、聞いてみるとNHK「みんなのうた」のような日本語の歌やった……
でも本編の音楽はいかにもロシアっぽくって良かった。
ある音楽家の家に買われて来たこねこの「チグラーシャ」は花瓶を割ったり書類をインクで汚したり大暴れ。
怒る父母となだめる祖母、そしてチグラーシャを庇って猫かわいがりする姉と弟。
チグラーシャがトイレを覚え、家族の怒りも解け始めたある日、チグラーシャは窓の外に見えるスズメを狙っているうちに窓の下のトラックの荷台に落ちてしまう。トラックはチグラーシャを乗せたまま走りだし、都会に一人で放り出されたチグラーシャの冒険が始まる。
と思った矢先、チグラーシャはネコ屋敷の独身男の所に転がり込む。
と言う感じのストーリーである。
見所は芸なんだか素なんだかわからないネコのプリティーさであろう。
サブタイトルは「猫がいっぱい!愛がいっぱい!」つーことで、最近は変態か殺伐としてるか人死にまくりか滅茶苦茶な映画ばかり見ていたのでこれは安心してほっこり観られるぞ。と思っていたけどちょっと甘かった。
チグラーシャと仲間のネコたちの話は良いのやけど、チグラーシャが転がり込んだ先のネコ屋敷の主の男がなかなかの曲者である。
友達はネコだけで、気になる女性もいるけど妄想に登場させる割にはネコをだしにしてしか話が出来ず好意を向けられても妙にそっけない、明らかに社会不適合臭プンプンの彼はネコのサーカスとそこで演技をする自分を白日夢に見ながら近所の雑用をしつつ何とか生活を保っていたのだが、とつぜんそこに地上げ屋が現れる。
地上げ屋に家を追われそうになり、地上げ屋の圧力で町の雑用を回してもらえなくなった彼はネコに芸をさせて金を稼ぎ、それもままならなくなりネコを売り払って金にしてしまう。更には地上げ屋に襲われたところをネコに助けられ、結局男はチグラーシャを音楽一家の元に返す事もない。
ネコをだしにして金を稼ぎ、ネコに助けられ、ネコにしか相手をされないどころかネコにおんぶに抱っこの男のダメさ具合が見ていて「アイタタ」と胃が痛かった…
どう見てもその男よりネコ達の方がしっかりしてるし、ネコたちが男を養っているように見える。典型的な「心だけ優しいダメ男」というやつである。
「猫がいっぱい!愛がいっぱい!」に加えて「いっぱいいっぱいのオッサンのダメダメ加減もいっぱい!」であった。
と、その「ネコ屋敷の男」に対して我々はそういった見方するかもしれないけど、恐らくロシアではこの男は虐げられた社会的弱者であるけど、ネコ好きの心優しい同情すべき男のある種の典型であるのだろう。
そう考えると、ロシアって寛容やなーと思った。
しかしこのダメ男を演じた人はロシア随一のネコ使いらしい。広いロシアの台地には「ネコ使い」なる人間もいるとは驚きである。
それと気になった点がもう一つ。我々は「チグラーシャ」と言うネコを呼ぶ場合、「ちぐらーしゃーー」と母音のaを伸ばして呼ぶ事が多いけど、ロシアで「チグラーシャ」を呼ぶ場合は、早口で「ちぐらしゃちぐらしゃちぐらしゃ」と呼んでいてちょっとびっくりした。
ネコ好きは何処の国でも同じやなーと思うと同時に、ネコの呼び方やら弱者への視線やら、ちょっとしたロシア文化を垣間見る事との出来る映画であった