小津安二郎「東京物語」(1953/日)

amazon ASIN-B000VRRD20小津安二郎の『東京物語』を観た。もちろん「有名やけど見ていない昔の映画を見よう企画」の一環で、日本だけではなく、世界的にも評価の高い傑作の一つとみなされる事の多い映画である。
年老いた老夫婦が尾道から東京へ子供たちを訪ね歩くも、日々の生活に追われる子供たちはちゃんと相手をする事ができない。老夫婦は戦死した息子の未亡人の親切さに触れてそれなりに満足して尾道に変えるも、事態は急変する。と言う感じのストーリーである。
野望も陰謀も血も暴力もない、日常の良くありそうな話が淡々と綴られる、透明感と静かさに満ちた映画であった。


ネット上では美容院を経営する長女が図々しい嫌な女を醸し出しているような意見が多かったけど、私には欲望をストレートに出して現実的であるだけで決して悪い人間には見えなかった。
登場人物が悪人善人にきっちり分けられるのではなく、誰でもが等しく善人であり誰でもが等しく自分の事しか考えていない、善悪混ぜ合わされた存在としてリアルに描かれていたのが、人物描写として分かりにくいようでありながら、実はリアルと言う意味で分かりやすいような気がした。
最後の方で原節子演じる紀子が心情を吐露するシーンは中々のものがあった。このおかげで紀子はただの良い人で無く人間味を持った良い人になったのだ。
結局、人間の表層に分かりやすく見えてくる部分は、中でドロドロ流れているどの部分が浮かび上がっているのかと言う話なのかもしれない。
誰も悪くないけどかと言ってとても上手くいっているとは言えない、年老いてから感じるちょっとした違和感が、世代による感覚の違いであるとか時代の流れによる価値の変容だとか言うのは分かりやすい。
でもそれは特別な時代や特別な世代によってのみもたらされる特殊な事ではなく、いつでもいつの時代でも避けようも無く起こりうる事なんだろう。
誰もが善意を向け合って生きていたとしても、生きているだけでこの映画のようなちょっとした哀しみのようなものを味わうわけで、それは避けようとしても避けられるものではなく、そういうものとして考えておいたほうが良いのだろうなと思った。

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