スタンリー・キューブリック 『バリー リンドン』(1975/米)
スタンリー・キューブリック 『バリー リンドン』を見た。
18世紀、七年戦争前後のヨーロッパを舞台に、農家の平民が嘘とペテンを武器に世渡りし、富と名誉を求めて上流階級へと這い上がる、山あり谷あり波乱万丈の物語である。
と言うと、めまぐるしく場面が展開する息もつかせない物語を想像するけど、実際は淡々と、退屈なくらいに物語は進行する。
蝋燭の光や窓から挿す光の自然光のみで撮影するために、NASA開発の非常にF値が低いレンズを使用して18世紀の風俗を忠実に再現したキューブリック的拘りの作り出す映像が劇的に美しいという評判どおり、確かに映像はレンブラントとかフェルメールっぽい明暗があってとても綺麗やった。
特に人間的魅力を感じない小悪人である主人公の波乱万丈の人生を、全くドラマチックでもないように、変に綺麗な映像で描いた映画。という感じであろうか。
物語としては大きな起伏で展開しているはずやけど、決闘や戦争や親友や肉親の死のシーンやからといって過剰な演出をしたりせず、全てのシーンを同じテンションとトーンであっさり描いているから淡々とした印象を受けるのやろう。アマゾンの評では主人公に血が通っていないという意見が多かったけど、私は描かれている主人公を結構リアルだと感じた。
しかしながら主人公を見る視点が同情も共感も軽蔑も嫌悪も無いような観察的なものであるのはその通りなので、そこが血が通っていないように見える原因なのではないだろうか。
主人公に魅力が無い物語は結構好きやけど、それでも黒澤明のサービス精神旺盛な映画に慣れた頭には少し退屈やった。
結局この映画を素晴らしいと思うかどうかは、リアリズムの発現の場として映画を捉えているかどうかになるのではないだろうか。
私は映画をエンタメとネタ要素として映画を見ているし、私にとってのメインカルチャー的なメディアは本であるからリアリズム的なものは小説の中に求める。
と言いつつも、妙に映画のトーンや映像が印象に残る映画であった。多分また先に見たくなるような気がする。