ウォルター・サレス 「モーターサイクル・ダイアリーズ」 (2004/米=独=英=アルゼンチン)
ウォルター・サレス 「モーターサイクル・ダイアリーズ」を観た。
キューバの革命家であるチェ・ゲバラが青年時代に友人二人と南米を旅する様を描いた典型的なロードームビーである。原作の『モーターサイクル南米旅行日記』は映画のタイトルと同じに『モーターサイクル・ダイアリーズ』と改題されて最近文庫で出ているようやけどこちらは未読。
なんとなくそれなりに軽いノリで貧乏旅行に出かけて見たものの、貧しかったり虐げられていたり病気として隔離されていたりする人々を見て彼らと接しているうちに、我知らず彼らを取り巻く問題を自分に関わる問題として捉えてゆく。とそこまではまぁどちらかと言うと月並みな物語である。普通の並の人間ならこの経験を元に人生の深い何らかを知る。ってな個人的な話で終わるのやけど、結局ゲバラはこの旅行の経験が大きな契機となって、虐げられた人の味方として革命に身を投じるわけであるらしい。
勿論こんな旅をした人が誰でも革命家になるわけではなく、結局ゲバラはこの旅で一般大衆たる我々が同じ旅をしても見るであろう事を見て、経験するであろう事を経験して、その後に我々一般大衆が考えない事を考え、見過ごした事を見逃さず、又別の問題意識をもって社会に関わるようになったと言う事なのだろう。
この映画の時点で彼は中々に熱くも良いヤツでカッコ良い青年であるけど、将来革命家として立つとはちょっと想像できない。
彼はその後親しみを込めた呼びかけである「チェ」をつけて呼ばれるほどに一般大衆に好かれた革命家にになるわけやけど、その親しみやすさこそ、彼が余りにも人望のある普通の青年で革命家然としていない部分によるものが大きかったのでは無いだろうか。と思った。
まぁその人について語られた映画からその人を語るのも妙やけどね…しかも映画の話じゃないし…
ゲバラがチェ・ゲバラであるゆえんは時代的にこの映画の先にある革命運動にあるわけである。
実際私がこの若者のロードムービーを観ようと思ったのは、それがゲバラの若い頃の話であったからだ。
しかしながら映画を観始めるとそれがゲバラがどうかは余り関係なく、ただの若者たちの淡々とした旅をただ淡々と観ていた。ストーリー的な山も谷もなだらかで淡々としているのに、気付くと何故か感動している。と言った感じである。
「革命家ゲバラの若い頃」ってな映画のストーリーの後に来る物語を前提とした映画のストーリーを語るに見せかけて、実際は前提なしで映画そのものをじっくり見せる、不思議と心温まる映画であった。